- STP分析(エスティーピー分析)とは、Segmentation(切り分け)→ Targeting(狙う)→ Positioning(居場所を取る)の3段階を、じょうごのように上から下へ絞り込んで戦略を組み立てるフレームワークです
- 起源はKotler単独ではなく、Wendell R. Smith(1956年 Segmentation論文)、Al RiesとJack Trout(1969〜1981年 Positioningシリーズ)、Philip Kotler(1967年以降『Marketing Management』で体系化)の三重奏です
- 「戦略はSTP、実行は4P」の役割分担が実務の共通言語です。STPで「誰に・どこで勝つか」を決めてから、4Pで「何を・いくらで・どこで・どう伝えるか」を設計します
- 日本のマーケ現場では、Kotlerの魅力度4項目を6軸に分解した「6R(Realistic scale・Rate of growth・Rival・Rank・Reach・Response)」でセグメントを評価する流儀が定着しています
- QB House(集中型ポジショニング)、Starbucks(心理的セグメント)、Coke Zero(差別型)、Netflix(行動セグメント)などの成功例と、Segway・McDonald’s Arch Deluxe のようなSTP順序を崩した失敗例を対比して読み解けます
- 生成AIとナレッジグラフの登場で、Segmentation は約80%、Targeting は約60%が自動化に向かっています。Positioning には「AI応答に自社名が含まれるか(Share of Model)」という新しい指標が加わり、従来のSEOの延長では捉えられなくなっています
- じょうごを反復ループで回すやり方は、Salesforce Einstein、HubSpot Breeze、Meta Advantage+、電通 People Research、Snorbe などのツール群を組み合わせて実現します。本文で具体的な使い分けを紹介します
STP分析とは?じょうごの3段で戦略を絞り込むフレームです

STP分析(エスティーピー分析)は、マーケティング戦略を「切り分ける・狙う・居場所を取る」の3段階に分けて設計するためのフレームワークです。順に並べると、Segmentation(セグメンテーション、市場細分化)→ Targeting(ターゲティング、狙う市場の決定)→ Positioning(ポジショニング、顧客の頭の中で自社の居場所を確保)となります。
このS→T→Pの流れを、私は「じょうご(漏斗)」として整理するのがいちばんわかりやすいと思っています。じょうごの上は市場全体という広い口、真ん中で1〜2セグメントに絞り、下の細い出口では「あの会社といえば◯◯だよね」と想起される場所を確保する。上から下へ順に絞り込んで深めるのがコツです。
Adobe の解説記事「The STP Marketing Model」がこの前提を端的にまとめていて、「一つの製品ですべての人を満足させることはできない」から市場を意味あるかたまりに切り分けて集中する、というのがSTPの根っこの考え方です。イギリスのSmartInsightsも、STPを「デジタル時代でも消費者に届けるためのモデルとして依然として妥当」と評価しています。60年経っても現役の道具、というわけです。
日本語での定義は、Salesforce Japan がわかりやすいです。「セグメンテーション、ターゲティング、ポジショニングの3つを軸に分析するマーケティングのフレームワーク」と整理しています。
STPは1人の発明ではなく「三重奏」で生まれた
意外と知られていないのですが、STPはPhilip Kotler ひとりが作った枠組みではありません。少なくとも3人の系譜があって、それぞれ別の論文と書籍で世に出ています。
最初に「セグメンテーション」という概念を体系化したのは、Wendell R. Smith が1956年に Journal of Marketing に発表した論文「Product Differentiation and Market Segmentation as Alternative Marketing Strategies」です。当時のマーケティングは「みんなに同じものを売る」大量生産の思想が主流で、そこに「違う顧客には違うものを」という視点を持ち込んだのがSmithでした。
次に「ポジショニング」という言葉を世界に広めたのが、Al Ries と Jack Trout です。1969〜1972年にIndustrial Marketing 誌で「The Positioning Era Cometh」の連載を発表し、1981年に単行本『Positioning: The Battle for Your Mind』として結実させました。「差別化とは製品の機能を尖らせることではなく、顧客の頭の中の一等地を奪い合うこと」というテーゼは、この本から生まれています。Al Ries 公式サイトのポジショニング解説にも当時の背景が残っています。
そしてKotler は、1967年の『Marketing Management』初版から S→T→Pの順序を教科書として体系化し、Northwestern大学 Kellogg School of Managementで S.C. Johnson & Son の冠講座教授を務めながら、「戦略はSTPで決めて、実行は4Pで回す」という現代マーケティングの土台を敷いた人物です。Kellogg Insight のインタビュー記事では、Kotler 自身が「マーケティングの高次な目的」を語っていて、STPを単なる分析ツールではなく「顧客理解の作法」として位置付けていたことがわかります。
日本語版のWikipedia 「STPマーケティング」も、この三重奏の系譜を整理しています。
「戦略のSTP、実行の4P」という役割分担
STPを勉強すると必ず出てくるのが4P(Product・Price・Place・Promotion)との関係です。ここは初学者がいちばん混乱しやすいところなので、はっきり整理しておきます。
STPは「戦略の方向」を決めるフェーズ、4P(と、その顧客側から見た版である4C:Customer・Cost・Convenience・Communication)は「実行の設計」を決めるフェーズです。STPが決まっていない状態で4Pを議論すると、「誰に売るのか」が定まらないままキャンペーンだけが走り、社内で「対象顧客がバラバラ」という事態に陥ります。
麻布広告の解説「マーケティングミックスとSTPの違い」は、この役割分担を「STP(戦略)→ 4P/4C/7P(施策)」の流れとして整理しています。Salesforce Japan のマーケティングミックス解説も、「環境分析 → STP分析 → マーケティングミックスの検討 → 実行と評価」というPDCAで回す、と説明していて、STPを飛ばして4Pに行くと空回りする、というのが実務のコンセンサスです。
なぜ「じょうご」として捉えるといいのか
Kotler の『Marketing Management』第15版でも、Value Delivery Sequence の中に Segmentation → Target Selection → Value Positioning の順で明記されています。Pearson版の書誌情報を見ると、この順序は50年以上ずっと変わっていません。
なぜ順序が大事かというと、Segmentation の時点で「市場全体」という広い口を持ち、Targeting で1〜2セグメントに絞り込み、Positioning ではそのセグメントの頭の中に「唯一の場所」を掘るからです。この形はまさに漏斗(じょうご)で、上から下へ順に絞りながら深めていきます。
じょうごの上下を間違えると、実務では次のような現象が起きます。
- ペルソナは決まっているのに市場定義が曖昧で、営業と広告が別の顧客像で動いている
- 差別化ポイントは尖っているのに、誰に向けたものかわからないまま広告が空回りする
- 「うちの顧客は全員」と言い張った結果、誰にも刺さらない八方美人の商品ができあがる
3つ目は私も過去に何度か見てきた光景で、社内で「うちの主力は幅広い顧客層です」という説明が出てきたら赤信号だと思っています。じょうごの上を絞れていないので、下流の広告メッセージが「みんなに向けた無難な言葉」に薄まってしまう典型パターンです。
このセクションで押さえたいのは、STPは「S→T→Pの順に、上流を広く保ちながら下流で絞り込む」設計の作法だ、というシンプルな一点です。次のセクションからは、じょうごの入口である Segmentation から順番に、具体的な切り口と失敗パターンを見ていきます。
Segmentation(じょうごの入口)市場を意味あるかたまりに切る

じょうごの入口、つまりSTPの1段目にあたるのが Segmentation(セグメンテーション)です。「市場を意味のあるかたまりに切り分けること」と、まずはやさしく言い換えると入りやすくなります。
Segmentation の目的は、購買動機が似ている顧客同士をひとまとまりにして、隣のかたまりと区別できるようにすることです。逆に言えば、「かたまりの中は似た者同士(内部同質性)」で「かたまりの外は違う顔ぶれ(外部異質性)」という状態を作れれば、Segmentation はうまくいっています。この2軸で考える整理は、Segmentation Study Guide が学習者向けにわかりやすくまとめています。
4つの基本切り口
Kotler が体系化した4カテゴリが、今でもSegmentation の標準になっています。
- 地理的(Geographic)。国・地域・都市サイズ・気候で分けます。飲食チェーンの立地戦略や、寒冷地向け商品などが該当します
- 人口動態的(Demographic)。年齢・性別・所得・職業・世帯構成・学歴で分けます。B2Cでもっともよく使う切り口です
- 心理的(Psychographic)。ライフスタイル・価値観・パーソナリティ・オピニオンで分けます。「サステナビリティ重視」「投資に積極的」などが例
- 行動(Behavioral)。購買頻度・ロイヤルティ・使用場面・ベネフィット重視で分けます。ECの購入履歴や、SaaSの利用ログはここに入ります
Retail Town の解説 によれば、この4カテゴリはKotlerが「記述的特徴」と「行動的考察」の2大変数に分けた枠組みが元になっています。データマーケの大手Acxiom も、「デモグラフィックだけでは説明力が弱い、心理と行動を組み合わせて初めて実行可能になる」と整理していて、実務では複数の切り口を掛け合わせるのが基本です。
良いセグメントの5条件
「意味のあるかたまり」と言われても、じゃあどう判定するのか、という話になります。Kotler は、実務で通用するセグメントには次の5条件が要ると提唱しています。
- Measurable(測定可能性)。規模と購買力を数値で捕捉できるか
- Accessible(到達可能性)。広告や営業チャネルで届くか
- Substantial(実質性)。事業として意味のある大きさか
- Differentiable(差別可能性)。隣のセグメントと明確に区別できるか
- Actionable(実行可能性)。自社のリソースで攻略できるか
OpenStax の Principles of Marketing 教科書 がこの5条件を丁寧にまとめていて、頭文字で「MADAM」または「MASDA」と覚える流儀もあります。米国のCRM系メディアCommence も同じ5条件を挙げつつ「Measurable が失敗すると他の4条件は成立しない」と実務観点で強調しています。
数字で追えないセグメントは、そもそも意思決定の材料にできない、ということです。ここは初学者がつまずきやすい落とし穴で、たとえば「自己実現を大事にする人」というセグメントを作っても、それを何人と数えられなければ広告予算をあてる判断ができません。まず測れる形にする、が大原則です。
セグメンテーションでよくある失敗
現場でよく見る失敗を3つだけ挙げておきます。
- 細分化しすぎるパターン。セグメントが10も20もあるとリソースが分散し、どこにも刺さりません
- 粗すぎるパターン。「20〜60代女性」レベルだと、購買動機に踏み込めません
- 購買行動と結びつかないパターン。「アウトドア好き」だけでは「なぜお金を払うのか」が見えません
プロジェクト管理ツールのmonday.com も、「静的なデモグラフィックだけの粗い分類は現代では通用しない」と2026年時点で強調しています。ライフステージやSNS行動、購買履歴と組み合わせないと、動きの速い消費者の姿を追えないからです。
日本のBtoBで使われる切り口
Segmentation の切り口はBtoBとBtoCで少し違ってきます。BtoBの現場でよく使われるのが、ferret One がまとめている「業界 × 従業員規模 × 事業ステージ」の3軸です。SaaSの営業だと、これに加えて「意思決定者ロール(経営層/情シス/現場マネジャー)」を掛けるのが定番になっています。
さらに実務でつまずきやすいのが、意思決定者(Buyer)と実務利用者(User)の混在です。同じ会社でも、決裁するCFOと日常的にツールを触る現場担当は、まったく違う購買動機を持っています。BeMARKE は、「BtoB では Buyer と User を分けてセグメントする」ことを推奨していて、これができていないと、営業資料と製品UIで「刺さる言葉」が食い違うことになります。
Salesforce Japan のSTP解説 も同じ趣旨で、「複数の切り口を組み合わせて市場を細分化する」ことを基本姿勢として説いています。単一の切り口では、購買動機の解像度が上がらないからです。
一言まとめ
Segmentation は、市場という広い口を、購買動機で似た者同士のかたまりに切り分ける作業です。切り方は「どこに住んでいるか(地理)」「どんな属性か(人口動態)」「どんな価値観か(心理)」「どう買っているか(行動)」の4つが基本で、日本のBtoBだと「業界 × 規模 × 事業ステージ」の3軸をよく使います。良いセグメントの条件は、数えられて、届いて、事業として意味があって、隣と区別できて、自社で攻略できる、の5つ。この5つを満たさないセグメントは、じょうごの入口で早くも詰まってしまいます。
次のセクションでは、じょうごの真ん中、つまり「切り分けた中からどこを狙うか」というTargeting の話に進みます。ここで登場するのが、日本のマーケ現場でよく使われる「6R」という評価軸です。
Targeting(じょうごの中段)勝ちに行くセグメントを選ぶ

じょうごの真ん中にあたるのが Targeting(ターゲティング)です。「切り分けたセグメントの中から、どこで勝負するか」を選ぶ段階になります。ここでの意思決定を間違えると、Segmentation でせっかく作った切り口が全部無駄になるので、いちばん腹を決めるフェーズと言ってもいいかもしれません。
5つのターゲティング戦略
Kotler の教科書では、Targeting の戦略を次の5つに分けています。実務では、自社の規模やリソースに応じてどれかを選びます。
- Undifferentiated(無差別型)。市場全体に単一メッセージを打ちます。コカ・コーラ・レッドのような大衆製品向けです
- Differentiated(差別型)。複数セグメントに別々のマーケティングミックスを提供します。トヨタがレクサス/トヨタ/ダイハツで異なる層に打ち分ける形が典型例です
- Concentrated(集中型・ニッチ)。1セグメントに特化します。ハーレーダビッドソンや Rolls-Royce が該当します
- Individual Marketing(個別マーケティング)。顧客ひとりひとりに合わせます。BtoBのエンタープライズ営業や、テーラーメイドがこれに近いです
- Micromarketing(マイクロマーケティング)。地域・状況・イベントに合わせます。地元イベント向けの限定キャンペーンなどがこれにあたります
Electra Radioti の解説によると、この5戦略の元ネタはKotler の Marketing Management で、以来ずっと世界の教科書の標準になっています。JoVE Business Education も、「Undifferentiated は要件が均質な時、Concentrated は小規模企業のニッチ攻略、Differentiated は大企業のマルチセグメント」と整理していて、企業規模と戦略の相性は明確に紐づいています。
小規模事業の方は、この中では Concentrated(集中型)を選ぶことが多いと思います。1〜2セグメントに絞って深く刺すのが、リソースの少ない立場では合理的だからです。QB Houseや無印良品の原点も、この集中型でスタートしています。
セグメントの魅力度を評価する4項目
「どこで勝負するか」を決めるとき、感覚ではなく客観的な物差しが要ります。Kotler は魅力度評価の物差しとして4項目を挙げています。
- 市場規模(Size)。事業として食える大きさがあるか
- 成長性(Growth)。今後3〜5年で拡大するか
- 競争度(Competition)。参入障壁と既存プレイヤーの強さがどうか
- 自社適合性(Fit)。自社のケイパビリティ・資産・ブランドと合うか
Lumen Learning は、この4項目を「Segment attractiveness × Company fit」の2軸マトリクスで評価する枠組みを提示しています。縦軸に市場の魅力度、横軸に自社適合性を取り、右上(魅力度も適合性も高い)に来たセグメントを優先する、というシンプルな考え方です。
日本のマーケ現場で定着した「6R」
Kotler の4項目を、日本のマーケター界隈では6項目に細分化した「6R」で運用するのが定着しています。用語のバラつきはありますが、内容は共通です。
- Realistic Scale(有効な市場規模)
- Rate of Growth(成長率)
- Rival(競合)
- Rank / Ripple Effect(優先度・波及効果)
- Reach(到達可能性)
- Response(測定可能性)
伊藤忠テクノソリューションズの「ターゲティングの6R」、マップマーケティング、Sprocket、ProFuture がそれぞれ日本語で解説していて、どこも用語や順序は少しずつ違うものの、Kotler の4項目を「日本の現場でチェックしやすい形」に再整理したものだと考えていいと思います。
Salesforce Japan の6R解説 は、6Rを「勘や思い込みに頼らず、客観的にセグメントを選ぶための共通言語」と位置付けています。特にRipple Effect(波及効果)は日本独自の観点で、「そのセグメントを取ると、隣のセグメントにも良い連鎖が生まれるか」を問う視点です。B2Bだと「大手企業を1社取ると、同業他社への横展開の話が湧く」というのが典型的な波及効果になります。
BMOフレームも押さえておく
日本の大手代理店の提案書によく出てくるもう一つの枠組みが、BMO(Business Attractiveness / Market Attractiveness / Organizational Fit)です。「事業の魅力度・市場の魅力度・組織適合度」の3軸で事業機会を評価します。学術系の Business Model Ontology(Osterwalder系)と略称が同じなので、ResearchGate の Business Model Ontology 論文 と混同しやすい点は注意です。BMOの方は Osterwalder のビジネスモデルキャンバスの学術的土台なので、Targeting のBMOとは別物と覚えておきましょう。
BtoBのTargetingはABM時代へ
Targeting の話をB2Bで進める時、避けて通れないのがABM(Account-Based Marketing)です。ABMは「マーケティング側と営業側が同じアカウントリストを共有して、企業ごとにカスタマイズした施策を打つ」やり方で、B2BのTargeting を実務に落とし込む定番の運用形態になりつつあります。
Forbes の2026年ABMガイド によれば、2026年時点でエンタープライズB2Bの76%が正式なABMプログラムを運用しているとのことです。Demand Gen Report の2026 ABM ベンチマーク調査 でも、AI連携によって「購買意欲シグナルの解釈」と「アカウントスコアリング」がリアルタイム化してきた、という報告が並んでいます。
B2BのTargeting は「セグメントを選ぶ」段階から「アカウントごとにパーソナライズする」段階へと精度を上げてきていて、6Rでスクリーニングした結果を、ABMプログラムに流し込んで運用する、というのが今の実務の姿です。
落とし穴と対策
Targeting で私がいちばんよく見る落とし穴は、「うちの主力は幅広いお客様です」という説明が経営会議で通ってしまうケースです。これは Undifferentiated(無差別型)を無自覚に選んでいる状態で、リソースが分散して誰にも刺さらなくなる典型です。
対策はシンプルで、「1年後の売上目標のうち、いちばん重要なセグメントは何か」を1つだけ決めることです。じょうごの中段でこの決めをやらないと、Positioning の段階で「何を訴えるか」がぼやけていきます。
次のセクションでは、じょうごの出口である Positioning に進みます。ここが STP でいちばん難しいところで、「顧客の頭の中の一等地を取る」という抽象的な話を、Ries & Trout の原点から現代のポジショニングマップまで、順にほぐしていきます。
Positioning(じょうごの出口)顧客の頭の中に居場所を取る

じょうごの出口、STPの3段目にあたるのが Positioning(ポジショニング)です。ここが、STPの中でいちばん難しくて、いちばん面白いフェーズだと私は思っています。
Ries & Trout が『Positioning: The Battle for Your Mind』 で言い切った、「ポジショニングとは顧客の頭の中の一等地を占領すること」というテーゼが、いちばん本質的な定義だと思います。1981年の刊行から22言語に翻訳され、累計400万部超の古典で、Al Ries 公式サイト にも当時の背景が残っています。
差別化とは、製品の機能スペックを尖らせることではありません。「◯◯といえば、うちの会社」と自然に思い浮かぶ場所を、顧客の記憶の中に確保することです。Kotler と Kevin Lane Keller の共著は、この定義をさらに精緻化して、「Positioning とは、企業のオファリングとイメージをターゲット市場の心の中に独自の位置を占めるように設計する行為」と定義しています。SlideShare の Brand Positioning 資料 にコンパクトに整理されています。
ポジショニングマップ(Perceptual Map)の描き方
Positioning を可視化する定番ツールが、ポジショニングマップ(またはPerceptual Map、知覚マップ)です。顧客が意思決定するときに気にする2つの軸を選び、その平面に自社と競合をプロットします。
軸選びで押さえたいコツが3つあります。
- KBF(Key Buying Factor)を起点にすること。顧客が実際に購買を決める要因を軸に選びます
- 相関の低い2軸を選ぶこと。「価格」と「品質」は相関が高くて情報量が少ないので、「価格」と「ブランド認知度」のように独立性の高い組み合わせが良いです
- ターゲットが重視する要因を選ぶこと。自社目線ではなく顧客目線で軸を決めます
軸選定の基本は、koujitsu の「ポジショニングマップ 軸の決め方」 がわかりやすいです。マーケコンサルの才流 は「肝となる軸の決め方」テンプレートを配布していて、BtoBの現場だとセラクCCC がBtoB向けのポジショニングマップ作成手順を解説しています。
軸選びの落とし穴でいちばん多いのが、「機能豊富」×「使いやすさ」のような相関の高い軸を選び、自社が右上に来る自作自演のマップを描いてしまうケースです。これは「自社が勝っている絵」を見たいだけで、実際には顧客の意思決定を写していません。軸選びが恣意的なポジショニングマップは、経営会議のスライドで「見栄えは良いけど何も決まらない」典型パターンになります。
POD / POP / POCで差別化を分解する
Kotler と Keller のブランドポジショニング理論では、差別化を3つの概念セットで整理します。
- Point of Parity(POP、類似点)。カテゴリー内で「これは最低限あるよね」と期待される要素です。抗菌剤なら「殺菌力」、SaaSなら「SSO・監査ログ」がこれにあたります
- Point of Difference(POD、差異化点)。自社だけが強く連想される独自の要素です。Volvoの「安全」、Appleの「シンプル」などが代表例
- Point of Contention(POC、拮抗点)。自社と競合が「どちらが上か」で争っている要素です。B2B SaaSでいえば「ローコード度」「AIエージェント精度」あたりが該当します
Segmentation Study Guide の POD/POP 事例集 とClickUp の POD vs POP 解説 が学習用途に向いています。ClickUpが指摘しているのは、「Parity が達成できていないと、いくら強いPODを打っても勝てない」という点で、たとえばセキュリティ機能が競合より弱いSaaSは、いくら「AI連携が唯一無二」と主張してもエンタープライズ商談で通らないわけです。まずカテゴリーの合格ラインを満たしてから、そこに独自の一等地を積み上げる、という順序が肝要です。
Marketing Study Guide の POD & POP 学習ノート はもう少し体系的で、POD候補を「望ましさ」「実行可能性」「差別化度」の3つで評価する枠組みまで踏み込んでいます。
ブランドマントラで社内の言葉を揃える
Kotler と Keller はもう一つ、「ブランドマントラ(Brand Mantra)」という道具も提唱しています。3〜5語のフレーズで、ブランドのエッセンスを社内向けに凝縮する言葉です。
たとえば、Nikeの外向けタグライン「Just Do It」に対して、社内向けブランドマントラは「Authentic Athletic Performance」だと言われています。Volvoは「Safety」、Appleは「Simplicity」に近いフレーズが機能しています。定義と事例はMarkeview の Brand Mantra 解説 とMarketing91 が丁寧です。ブランドポジショニングステートメントの実例は、Softriver の7例集 が参考になります。
成功事例:QB House、Starbucks、Coke Zero、Netflix
具体例で見た方がわかりやすいので、代表的なポジショニング成功例を4つ紹介します。
QB House は、Blue Ocean Strategy の代表事例として世界で引用されているケースです。「時間に追われるビジネスパーソン男性」というセグメントに絞り、「10分・1,000円で終わる散髪」というポジションを取り、シャンプー・髭剃り・肩もみ・お茶・雑談をすべて削ぎ落としました。代わりに「エアウォッシャー」という毛を吸い取る発明で洗髪工程そのものを撤廃するイノベーションを起こし、日本・シンガポール・香港・台湾・米国に704店舗以上を展開しています。バーバー1人あたりの時給収益を約50%引き上げたことは、Blue Ocean Strategy 公式サイトのQB House ケース とMedium 記事 に詳しく整理されています。
Starbucks は、心理的セグメンテーションとライフスタイル訴求の教科書的事例です。「家でも職場でもない自分の居場所」というサードプレイスのポジションを取り、200円のコーヒーが飲めるチェーンがある中で500〜600円を維持しています。20歳未満から70代までを男女別にセグメントし、職業別(学生、会社員、公務員、自営業、ノマドワーカー、退職者)でさらに細分化した戦略が、blog.bizboost と輸出ラボ に詳しくあります。米国側の視点はAdilo の Starbucks Brand Positioning 2026 にまとまっています。
Coke Zero は、Diet Coke の男性版として、20〜29歳男性のうちカロリーは気にするが「Diet Coke の女性的印象」を嫌う層に狙いを絞りました。白基調のDiet Coke缶に対して黒基調の缶で男性性を強調し、「甘さそのまま、カロリーゼロ」というポジションで英国市場だけで初年1.61億ポンドを追加。Diet Coke の男性比率が45%だったのに対し、Coke Zero は55%を男性が占めた実績がCoca-Cola Investors のプレスリリース とIPA のケーススタディ に残っています。
Netflix は、行動セグメンテーションを徹底した例です。年齢や地理より視聴履歴・時間帯・binge-watching習慣を重視し、「2,000のテイストコミュニティ」に顧客を分類しています。視聴されるコンテンツの80%以上がレコメンドから発生する運用は、Business Model Analyst の Netflix Target Market 2026 とWhite Label Loyalty の分析 に詳しくあります。ポジションは「観たいものが観たい時にある」で、静的なペルソナに頼らない「行動 × 文脈」の切り方の代表例です。
日本のブランドで対照的なのが、ユニクロと無印良品の使い分けです。ユニクロは「LifeWear」というブランドコンセプトで機能的価値を言語化 し、SPAモデルで供給の安定化を実現しています。一方の無印良品は「必要なものを、必要なかたちで」思想でムジラー(無印ロイヤル顧客)を獲得 しました。片や機能的価値、片や情緒的価値(世界観・思想)で差別化していて、同じ日本発の生活雑貨カテゴリでも、Positioning の軸が全然違うのが面白いところです。
失敗事例:Segway と McDonald’s Arch Deluxe
Positioning に失敗すると、どんな悲劇が起きるか。教科書的な2例だけ紹介します。
Segway は、個人移動・警察巡回・ラストマイル配送・観光ツアーと、色々な用途で売ろうとした結果、「Segwayって何?」に一言で答えられない状態になりました。顧客の頭の中に居場所がないままリソースが分散し、100台ずつ20用途に散らばって、どこにも根付かなかった、というのがForbes とThe Brand Bite の分析です。Prophet の考察 は、「ブランドが認知の一等地を取れなかった時にどうなるかを示すRies & Trout の教科書事例」と評しています。
McDonald’s Arch Deluxe は、1996年に当時USD 100M以上のマーケ予算を投下して「18〜49歳の大人向け高級バーガー」というポジションを取ろうとしました。ところが「子供が嫌がる大人のバーガー」と広告で強調した結果、既存の家族客を疎外し、フランチャイジーは特殊食材の調理を嫌がって現場から反発が出ました。2000年に販売終了。「ターゲットを変えるならブランドも一度作り直せ」を怠った教科書的事例として、Medium とOpen Marketing Hub とProduct Management Toolkit に詳しくあります。
この2つに共通するのは、「Positioning の軸が定まらないままキャンペーンだけが走った」という構造です。じょうごの下流でポジションが定まらないと、上流のSegmentation と Targeting でどれだけ丁寧に切り分けても、最後の想起の一等地は取れません。
次のセクションでは、AIが登場したことでSTPのじょうごが具体的にどう変わっているか、そして「反復ループ」で回すやり方を、実務ツールとあわせて紹介します。
AI時代のSTP:リアルタイムじょうごと反復ループの回し方

STPの各段階に生成AIが入り込みはじめた結果、じょうご全体の運用が「四半期に1回作る資料」から「常に回る観測装置」に変わりつつあります。ここは私自身がいちばん面白いと思っているところで、順に見ていきます。
Segmentation × AI:粒度と速度がケタ違いに上がる
いちばん効いてくるのが Segmentation の粒度と速度です。LLMとナレッジグラフの登場で、これまで人力では追えなかった心理・行動データからのセグメント抽出が現実になりました。
Volvo Construction Equipment のPersonaBOT 研究 は、RAG(Retrieval-Augmented Generation、外部データを検索してから回答するLLMの手法)を使った LLM が、従来のクラスタリング手法を上回る精度でペルソナ抽出に成功したことを実証しています。Journal of Retailing and Consumer Services 掲載の論文 は、顧客レビューや会話データからLLMが直接セグメントを抽出できることを示していて、テキスト由来のセグメント抽出は今や実務レベルまで来ています。
さらに強力なのが、リアルタイムセグメントの動的更新です。Braze の AI Customer Segmentation ガイド は、「新規/育成中/ロイヤル」といったライフサイクルセグメントが購買イベントと同時に切り替わり、次に届くメッセージが即座に変わる仕組みを解説しています。夜のログを翌朝までにAIが再構成し、昼のキャンペーンを差し替える、というのが2026年時点の実装レベルです。
さらに面白いのが「合成消費者(Synthetic Consumers)」の登場です。C+R Research の AI Persona Simulations では、AIペルソナを「デジタルの調査参加者」として扱い、価格や広告コピーへの反応を即座にフィードバックさせる手法が広がっているそうです。従来3週間かかっていたコンセプトテストが、AIペルソナへの問いかけで数時間に短縮されるケースも出てきています。
Targeting × AI:予測LTVと自動オーディエンス選定
Targeting のAI活用でわかりやすいのが、予測LTV(Lifetime Value、顧客生涯価値)とCAC(Customer Acquisition Cost、顧客獲得コスト)の組み合わせです。SegmentAの予測LTVが2,400ドル、SegmentBが600ドルなら、SegmentAの獲得に4倍の広告費を投下してもペイする、というシンプルな意思決定が可能になります。Pecan の LTV 予測ソリューション とZigpoll の LTV/CAC 分析 が実装例を挙げています。
広告プラットフォーム側では、Meta Advantage+ と Google Performance Max が、手動セグメント指定を最小化して「AIが最適なオーディエンスを選ぶ」方向に舵を切っています。Meta の「Andromeda」アルゴリズムは、ターゲット指定より広告クリエイティブ自体をターゲティング信号として扱うようになっていて、Miniloop の PMax vs Advantage+ 比較 とPixis の2026年版比較 がそれぞれの向き不向きを整理しています。Marketing Economics の「The Great Targeting Takeback」 は、この流れを「ターゲット指定権が広告主からAIプラットフォームへ移った」と評していて、B2C EC の新規顧客獲得ではMeta Advantage+、既存需要の刈り取りではGoogle Performance Max、という使い分けが2026年の標準になっています。
CRM側では、Salesforce の Einstein Segments in Data 360 とHubSpot の Breeze AI が、購買履歴 × 挙動データ × 属性を統合して「割引に反応しやすいセグメント」を予測配信する機能を出しています。B2Bでは、Forbes の2026年ABMガイド が指摘するように、76%のエンタープライズB2BがABMプログラムを運用し、AIエージェントが購買意欲シグナルを解釈してアカウントスコアリングをリアルタイム化する流れが標準になりつつあります。
Positioning × AI:Share of Modelという新指標
Positioning のAI活用は、Segmentation ・Targeting ほど「自動化」に振り切れていないのが正直なところです。「顧客の頭の中に居場所を作る」というクリエイティブな判断は、まだ人間が優位です。McKinsey のレポート が示すように、Positioning はAIと人間の共同作業になっていく、というのが現実的な見立てです。
とはいえ、AIが効く場面は着実に増えています。POD / POP / POC の言語化は、競合3社の公開情報と自社のIRを渡すだけでLLMが差分抽出できるようになりました。HubSpot の Breeze AI は、同じセグメント向けに複数のコピーバリエーションを自動生成しCTRの高いものを学習していく機能を提供していて、A/Bテストのサイクルが以前より一段短くなっています。
そして2026年時点でいちばん見逃せないのが、AI Overviews と ChatGPT Search の登場による「Share of Model(SoM)」という新指標です。Search Engine Land の GEO 解説 とarXiv の Generative Engine Optimization at Scale 論文 が示しているように、Google AI Overviews や ChatGPT Search の応答で「ブランド名がAIの返答に含まれるか」が新しい想起指標になっています。従来のSEO順位よりも「AIに引用されるか」が想起を左右する時代です。
Enfuse Solutions の分析 は、AI Overviews に含まれるとインフォメーショナルクエリで1.5倍、トランザクショナルクエリで3.2倍のトラフィック増があると報告しています。ところがimpact.com の調査 では、43%のマーケターがAI検索最適化を2026年の中核戦略と回答するも、AI引用率をトラッキングしている企業はまだ14%にとどまっています。この落差はチャンスで、今から Share of Model を計測し始めれば、競合より一歩先んじる余地がまだ残っています。
さらに一歩先の議論として、Harvard Business Review 2026年2月号「How Brands Can Adapt When AI Agents Do the Shopping」 は、Amazon・Google・OpenAI・Metaの新AIショッピングツールが台頭する中で「AIエージェントに選んでもらえるか」が新しい競争軸になる、と指摘しています。eMarketer の Agentic Commerce FAQ も、人間だけでなくAIエージェントもオーディエンスに含めた Segmentation の議論が始まっていることを紹介していて、じょうごの下流に「AIエージェントへのポジショニング」という新しい階層が加わりつつあります。
日本の代理店が動かす1億人規模のAIペルソナ
日本の広告代理店の動きも押さえておきたいところです。電通の「People Research」 は、約15万人の調査データをLLMでファインチューニングし、1億人規模のAIペルソナを再現しています。セグメント抽出からデプスインタビューまでを同一プラットフォームで完結できる設計で、note の解説記事 にも運用イメージがあります。
博報堂の「B2Bディープインサイト with AI」 は、「生活者発想」というブランド哲学をAIペルソナで拡張したサービスで、B2Bにも展開しています。AI革命の解説記事 が電通・博報堂のAI活用事例を並列で整理していて、両社ともAIペルソナへのインタビューで Segment 検証 と POD の言葉遣い確認を実務ワークフローに組み込みつつあることが読み取れます。
ツール別の使い分け早見表
STPのフェーズごとにフィットするAIツールは違います。実務での使い分けをざっくり整理しておきます。
- ChatGPT Enterprise。汎用・対話・ドラフト作成に強く、Positioning Statement のドラフトや社内コミュニケーション用テキストに使うのが実務的です
- Perplexity for Business。リアルタイム検索と出典付き要約が得意で、Segmentation の初期リサーチと競合の直近ニュース収集に向いています
- Felo。日本語検索とスライド化に強く、経営会議用のSTP資料化で活躍します
- 電通 People Research。AIペルソナへのインタビューで Segment 検証や POD の言葉遣い確認ができます
- 博報堂 バーチャル生活者。生活者インサイト × B2Bでの Positioning メッセージ検証に向いています
- Snorbe。ナレッジグラフ型のリサーチエージェントで、STP全段階に噛み合う出力を返し、過去の調査を蓄積して次回に活かせます
Snorbeを使ったじょうごの反復ループ
私たちが提供しているSnorbe(スノルブ) は、ナレッジグラフ型のリサーチエージェントとして、STPのじょうごを反復ループで回すために設計されています。他のツールと違う色は、次の3点です。
1つ目は、完全記憶型ナレッジグラフです。ChatGPT や Perplexity はセッション単位で調査が完結してしまいますが、Snorbeは過去の調査結果を全部ナレッジグラフに保存し、次回の調査で自動的に引き当てます。「先月やったSaaS業界のSegment設計、成長率だけ更新して」という依頼が、そのまま自然な日本語で通ります。
2つ目は、専門データベースへの一発接続です。JPO(特許庁)・EPO(欧州特許庁)・Google Patents・arXiv・PubMed・Semantic Scholar など、STP分析で欲しくなる一次データベースを標準搭載しています。新規参入の脅威や代替品の脅威を、特許動向とアカデミック論文の両面から拾いに行けるのがナレッジグラフ型の強みです。
3つ目は、自然な日本語クエリです。Boolean 検索式や CQL を書く必要はありません。「日本のBtoB SaaS の中堅企業向けHR Tech の6R評価をやって」と日本語で投げるだけで、Snorbeがクエリ設計から情報収集、要因評価、レポート化までを回します。
具体的な週次の反復ループはこんなイメージです。
- 初日は、業界の初期スナップショットをSnorbe Deep Researchで作ります(30分〜1時間)
- 2日目は、主要競合の四半期IRと直近3ヶ月の特許出願をグラフに追加して、Segmentation の粒度を上げます
- 3日目は、X(Twitter)とニュース、PR TIMES から、消費者行動や競合発表のシグナルを反映して 6R を更新します
- 4日目は、前週分析との差分をSnorbeに洗い出させ、変化したTargetセグメントを特定します
- 5日目は、変化に基づく Positioning ステートメントを更新し、経営会議用に共有します
この5日サイクルを毎週回すと、STPは「四半期に1回作る資料」ではなく、「毎週更新される戦略の観測装置」に育っていきます。しかも過去の分析はすべてグラフに残るので、半年後・1年後に「なぜ我々はあのとき集中型ターゲティングを選んだのか」を辿れる資産にもなります。
展望:じょうごが「経営の観測インフラ」になる
最後に短く、今後の展望を書きます。STPは、これから「戦略ツール」から「経営の観測インフラ」へと位置づけを変えていく、というのが私の予想です。
理由は、McKinsey のレポート が指摘するように、AIエージェントが業務プロセスに常時組み込まれる方向に進んでいるからです。経営企画の月次サイクルの中に「STP観測エージェント」が常駐し、市場のセグメント構造が変化したら Slack や Teams にアラートを飛ばす、という運用が現実的になります。
そしてもう一つ、Jobs to Be Done との融合が加速しそうです。Clayton Christensen の HBR記事「Know Your Customers’ Jobs to Be Done」 とStrategyn の JTBD 原点 が示すように、「デモグラフィックではなく、顧客が達成したい仕事(Job)で市場を切り直せ」というJTBDの発想は、AIエージェント時代の Segmentation に極めて相性が良いです。JTBD で Segment を Job ベースで定義し、その上に STP を被せて Target と Positioning を決める、というハイブリッド運用がChristensen Institute のJobs to Be Done理論解説 で現実的な方向として整理されています。
60年前に生まれたSTP分析が、AIエージェント時代に「動く観測装置」として生まれ変わる兆しがあります。マーケター・事業企画・商品企画の実務にとって、これはむしろ大きな追い風になりそうです。フレームワーク自体は古典として揺るがず、運用方法だけが大きく進化していく。この構造は、他の経営フレームワークにも波及していきそうな気がしています。
よくある質問
Q1. STP分析(エスティーピー分析)とは何ですか?
Segmentation(市場を意味あるかたまりに切り分ける)、Targeting(狙うセグメントを選ぶ)、Positioning(顧客の頭の中に居場所を取る)の3段階を、じょうごのように上から下へ絞り込んで戦略を組み立てるマーケティングフレームワークです。1956年のWendell R. Smith 論文(Segmentation)、1969〜1981年のAl RiesとJack Trout(Positioning)、1967年以降のPhilip Kotler(体系化)の三重奏で成立しました。今も世界のマーケティング教科書の基礎になっています。
Q2. STPは1960年代のフレームワークですが、今も使えるのですか?
使えます。ただし「静的」に使うと機能しません。生成AIとナレッジグラフの登場で、Segmentation は約80%、Targeting は約60%、Positioning は約40%が自動化に向かっていて、データ更新の頻度と粒度をリアルタイム化すれば2026年でも中核の思考枠として現役です。SmartInsightsも「デジタル時代でも消費者に届けるためのモデルとして依然として妥当」と評価しています。
Q3. STPと4P(マーケティングミックス)はどう組み合わせますか?
「戦略はSTP、実行は4P/4C」という役割分担が実務の共通言語です。STPで「誰に・どこで勝つか」を決めてから、4Pで「何を・いくらで・どこで・どう伝えるか」を設計します。STPが決まっていない状態で4Pを議論すると、対象顧客がバラバラのままキャンペーンだけが走り、社内で「営業と広告で顧客像が食い違う」問題が起きます。麻布広告やSalesforce Japanの解説がこの役割分担を丁寧にまとめています。
Q4. 日本のマーケ現場でよく聞く「6R」とは何ですか?
Kotlerの魅力度4項目(市場規模・成長性・競争度・自社適合性)を、日本の現場で6軸に細分化した評価軸です。Realistic Scale(有効な市場規模)・Rate of Growth(成長率)・Rival(競合)・Rank / Ripple Effect(優先度・波及効果)・Reach(到達可能性)・Response(測定可能性)の6つで、伊藤忠テクノソリューションズ、マップマーケティング、Sprocket、ProFuture、Salesforce Japanなどが並列で解説しています。Ripple Effect(波及効果)は日本独自の観点で、B2Bの横展開シナリオを評価するのに向いています。
Q5. AIでSTPをどこまで自動化できますか?
Segmentation はテキストデータやLLMクラスタリングで約80%、Targeting は予測LTVと自動オーディエンス選定で約60%まで自動化が進んでいます。ただしPositioning は「顧客の頭の中に居場所を作る」というクリエイティブな判断が中心なので、まだ人間が優位です。McKinseyのレポートは「AIと人間の共同作業になっていく」というのが現実的な見立てだと整理しています。Salesforce Einstein、HubSpot Breeze、Meta Advantage+、Google Performance Max、電通 People Research、博報堂バーチャル生活者などの実務ツールが揃ってきました。
Q6. ポジショニングマップの軸はどう選べばいいですか?
KBF(Key Buying Factor、顧客が実際に購買を決める要因)を起点に、相関の低い2軸を選ぶのが基本です。「価格」と「品質」は相関が高くて情報量が少ないのでNGで、「価格」と「ブランド認知度」のように独立性の高い組み合わせが良いとされます。ターゲットが重視する要因を、自社目線ではなく顧客目線で選ぶことも大事です。軸選びが恣意的なマップは、経営会議で「見栄えは良いけど何も決まらない」典型パターンになります。
Q7. STPは順番通りにやらないとダメですか?
目安として順番通りが望ましいですが、絶対ではありません。既存事業のカイゼンなら S → T → P の順が自然ですが、新規事業だと Positioning を先に構想して、そこから逆算で Segment を切り直すこともあります。Salesforce Japanの解説も、「STPは順番の入れ替えが可能」と明記しています。実務では、Positioning の仮説からじょうごを逆に登って S と T を再定義する、というやり方も選択肢に入れておくと柔軟に動けます。
Q8. Share of Model(AI応答での自社ブランド言及率)とは何ですか?
Google AI Overviews や ChatGPT Search の応答で、自社ブランド名がAIの返答に含まれるかどうかを示す新しい想起指標です。従来のSEO順位よりも「AIに引用されるか」がPositioning の成果を左右する時代に入っています。Enfuse Solutionsの分析では、AI Overviews に含まれるとインフォメーショナルクエリで1.5倍、トランザクショナルクエリで3.2倍のトラフィック増があると報告されています。ただしAI引用率をトラッキングしている企業はまだ14%にとどまっていて、今から計測を始めれば競合より先んじる余地が残っています。
調査手法について
こちらの記事はグラフAIリサーチプラットフォームのSnorbeを使って作られています。Snorbeは研究開発・新規事業向けの調査テーマに応じた幅広い項目のオートリサーチや、ナレッジグラフの構築、構造化レポートの生成ができるAIリサーチツールです。

Screenshot
調査したいテーマを入力するだけで、AIが深堀りすべき観点や広げるべき調査項目をレコメンドしながら、自動でリサーチを進めます。収集した情報はナレッジグラフとして蓄積され、未調査領域(ホワイトスペース)を可視化しながら調査の網羅性を高めていけます。
また、観点マトリクスを30秒・構造化レポートを10分で自動生成する機能があり、出典付きのレポートをMarkdown/PDF形式でエクスポートできます。調査の元データも保存されるため、ファクトチェックや社内共有も容易です。
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また、グラフAIを活用した社内ナレッジ管理や、研究開発・新規事業のリサーチ支援、セルフホスト導入のご相談も受け付けています。お困りの方はお気軽にご連絡ください。
市場調査やデスクリサーチの生成AIエージェントを作っています 仲間探し中 / Founder of AI Desk Research Agent @deskrex , https://deskrex.ai

