世界的な広告代理店WPPから学ぶ広告業界の生成AI戦略

広告・出版・マスコミ

半導体大手エヌビディアが過去最高の決算を発表する中で、実はエヌビディアと連携している広告代理店がいます。それは、世界最大手の広告代理店であるWPPです。

ちなみに、WPPは、7位と8位の電通と博報堂を抑えて、収益ベースで世界No1の広告代理店とされています。

Agency Mania Solutions

WPPは、エヌビディアとパートナーになり、生成AIを活用して広告代理店の業務に革新をもたらしています。今回の調査では、WPPが生成AIをどのように活用しているのか、その効果や影響について調査しました。

 ✍️ 要点

  1. WPPは世界最大手の広告代理店で、収益ベースで世界No.1です。
  2. WPPはエヌビディアとパートナーシップを結び、生成AIを活用して広告業務に革新をもたらしています。
  3. 広告業界全体では、生成AIへの社会的な期待が高まっており、特にデータ分析、コンテンツ開発、視聴者のターゲティングが重視されています。
  4. WPPのAI戦略は、クリエイティブ、プロダクション、メディアの各セクターにわたり、AIの広範な活用とM&Aを進めていることを示しています。
  5. 生成AIの使用に関する規制や倫理的な問題にも焦点を当てており、AI生成コンテンツに関する標準ポリシーやデータ&AI倫理原則の整備に取り組んでいます。

生成AIの広告領域への社会的な期待

WPPが生成AIに取り組む背景として、CMO を対象に行った2023 年のAI活用の調査では、上位からデータ分析とレポート (53%)、戦略クリエイティブおよびメディア利用のためのコンテンツ開発 (49%) 、視聴者のターゲティングとセグメンテーション (45%)となっており、広告領域への期待が高いことが伺えます。

inside.com

また、米国の広告代理店と関連サービス会社が 2030 年までに自動化により 32,000 人の雇用を失い、米国の広範な広告の 3 分の 1 が失われると予測しています。労働者が危険にさらされる可能性があります。生成 AI によって最もリスクにさらされる代理店の仕事には、事務職 (28%)、販売および関連する役割 (22%)、市場調査および関連役割 (18%) が含まれます。

Forrester

WPPとエヌビディアが打ち出す生成AI連携

そういった社会的な背景もあり、WPPは、AI テクノロジーに年間約3 億 1,800 万ドルを投資すると発表しており、エヌビディアとの提携にも進んでいるのでしょう。さらに、WPPの最高経営責任者であるMark Read氏は、「WPPは間違いなくAI企業になるだろう」と述べており、AIネイティブを掲げています。

具体的には、エヌビディアとWPPは、NVIDIA OmniverseとAIを活用して、クリエイティブチームがクライアントのブランドに合わせながら、高品質の商業コンテンツをより迅速かつ効率的に、そしてスケールできるようにするコンテンツエンジンの開発発表しました。

この新しいエンジンは、AdobeやGetty Imagesなどの3Dデザイン、製造、クリエイティブサプライチェーンツールとのエコシステムをつなぎ、WPPのアーティストやデザイナーが3Dコンテンツ作成を生成AIと統合できるようにします。

これにより、クライアントは消費者にパーソナライズされた広告でアプローチしながら、企業のブランドアイデンティティ、製品、ロゴの品質、正確さ、忠実さを保つことができるのです。2Dはもちろん、Nvidia Graphics Delivery Networkを通じてインタラクティブな3D体験を展開することを可能にしているそうです。

広告コンテンツを自動生成し、効果的な広告キャンペーンを展開することが可能となっています。

AIが広告制作の一部を置き換える可能性があるため、代理店は独自の技術を開発し、AIキャンペーンを管理する専門家になる必要があるのです。

重要なポイントは、生成AIによる自動化だけではなく、パーソナライズによる体験の向上が根底にあるのでしょう。WPPのCEOは、生成AIによるコスト削減は「10倍から20倍」になるとロイターに語っています。

WPPは生成AIのビジネスモデルへの影響を深く検討し、内部コンサルティングを通じてその効果を評価しました。その結果、インスピレーション、自動化、最適化の3つの主要なユースケースを中心にGenerative AIを活用するフレームワークを開発しています。

  1. インスピレーション
    • 生成AIがブレインストーミングや新しいクリエイティブなコンセプトの生成を支援することで、人間の創造性を拡張します。
  2. 自動化
    • ブリーフの処理や情報収集を自動化することで、時間とコストを節約します。
  3. 最適化
    • 数学と組み合わせて成果を最大化し、コンテンツのパフォーマンスと消費者の反応を改善します。

これらのユースケースを通じて、WPPは生成AIをビジネスプロセスに統合し、効率性とクリエイティブな出力を向上させることを目指しています。例えば、退役軍人の手紙を戦争の生々しい絵画に変えて将来の世代の記憶を生き生きと保つことから、セリーナ・ウィリアムズが若い自分と対戦するまでのこと、有名なフェルメールの絵画を拡大するまで、マルチモーダルにクリエイティブに活かす姿勢を積極的にPRしています。

WPP

ちなみに、Unileverや、WPPのクライアントであるNestléやOreo、Cadburyの製造元であるMondelezなども、OpenAIのDALL-E 2などを使用して広告を作成しています。

Cadburyの広告では、ボリウッド俳優シャー・ルク・カーンが歩行者に店舗での買い物を誘うAI生成のビデオがインドで放映されました。

また、Unileverは独自の生成AI広告ツールを作成し、そのツールを使用してシャンプー製品のスピールを作成していたり、Coca-Colaは、OpenAI と Bain & Companyと連携して、「Create Real Magic」キャンペーンを打ち出しています。

クリエイターは、特徴的なコカ・コーラの輪郭ボトルやスペンサー文字のロゴから、歴史あるシンボルに至るまで、数十のブランド要素に生成AIを活用してアクセスして、デジタル看板に掲載される機会を得ることができます。 

WPPのような広告代理店としても、クライアント側自身が生成AIのナレッジをためていくので、顧客をリードするために、積極的に自ら活用する戦略を取っているわけですね。

決算から読み解くWPPの生成AI戦略

WPPは、投資家向けの情報公開と、2023 年の報告において、下記の生成AIの戦略を発表しています。

WPP Investor Relations
  • WPPはAI、データ、およびテクノロジーを通じてリードすることを戦略の一環として挙げています。
    • 特に、AIを活用したテクノロジーのソリューション提供に注力しており、WPP Openを通じてAIパワードのテクノロジー解決策を提供しています。
    • これには、コマース、プロダクション、メディアでの技術ライセンス料に新たな機会を生み出すことや、クライアントがAIを使用できるようにするコンサルティングプロジェクト、AI組み込みソリューションを持つテクノロジープロジェクトが含まれます。
  • AIによる創造性の向上を通じてクライアントのROIを改善し、AIによる役割の生産性を高めることで戦略的スキルと洞察の価値を増加させることが可能になります。
    • また、AIによる作業はクライアントにとってより良いROIをもたらし、量が大幅に増加する場合にはFTEベースから成果物ベースのビジネスモデルへのシフトが重要になります。
    • 報酬は特にコマース、メディア、プロダクションにおいて結果により密接に連動するようになります。
  • AIを活用した効率化を通じて、バックオフィスの効率化を解除し、間接費を削減することができます。
    • これにより、WPPはテクノロジー、データ、AIを通じてリードし、クリエイティブトランスフォーメーションを加速させ、世界クラスの市場主導ブランドを構築します。
    • 効率的な実行を通じて財務リターンを向上させることを目指しています。
WPP Investor Relations

WPPは、クリエイティブ、プロダクション、メディアの各セクターにわたり、AIの広範な活用を進めています。主な例としては、以下のような取り組みが挙げられます。

  • クリエイティブ: “The Next Rembrandt”プロジェクトでは、2016年以来、AIを活用して創造性を高めています。これは、AIとOmniverseを活用したバーチャルプロダクションのためのコンテンツエンジンで、高度なクリエイティブプロダクションパイプラインを実現しています。
  • プロダクション: NVIDIA Omniverse™を活用したコンテンツエンジンを構築し、3Dデザイン、製造、クリエイティブサプライチェーンツールのエコシステムを統合しています。この取り組みは、著作権に安全なコンテンツ(CAD/CAMデータ、Adobe Substance 3D、Adobe Fireflyなど)と、Nvidia Picassoを使用して訓練された生成AIモデルに基づいています。
  • メディア: AIを活用したキャンペーンパフォーマンスの向上に取り組んでおり、AIツールを使用してメディアおよびクリエイティブパフォーマンスを測定し、最適化しています。

WPPは、AIを活用してクリエイティブな作業を強化し、パーソナライゼーションを拡大し、メディアおよびクリエイティブパフォーマンスを最大化しています。具体的な例としては、以下が挙げられます。

  • Jen AI: ジェニファー・ロペスのAIバージョンを開発し、特別なイベントへの招待状として利用しています。
  • パーソナライズされたハッピーバースデーソング: AIツールを使用して、すべての人に向けたパーソナライズされた「ハッピーバースデーソング」を生成しています。
  • メディアとクリエイティブパフォーマンスの最適化: AIを活用した測定と最適化を行い、キャンペーンの効果を高めています。

WPPは、ソニックブランディング(ブランドの音声作りや管理)の分野で世界をリードするAMP買収を通じて、AI戦略をさらに強化しています。

  • AMPのソニックハブ®は、AIツールセットを使用して顧客のアセットを分析、生成、管理することで、ブランドのアイデンティティにあう音声のライフサイクル全体をサポートしています。
  • これにより、WPPはクライアントのマーケティング戦略において音の重要性を高め、消費者とのつながりを深めることに貢献しています。

音声×デジタル広告やコンテンツ制作×生成AIに進出する未来を示しています。

生成AIと広告の規制と倫理的な問題

しかし、より多くの広告代理店やブランドが生成AIを使用して広告を作成しようとする中で、AI生成であることを消費者に知らせる必要があるかどうかという問題や、倫理的リスクや倫理的ガイドラインの確立が重要な課題となっています。

米国の大手AI企業は、AIツールを使用して作成されたものにラベルを付けるためのウォーターマーキング技術の開発についてホワイトハウスと合意しています。生成AI広告はその規則の対象になる可能性があり、 デジタルウォーターマーキング会社の最高製品責任者であるKen Sicklesは、AI生成コンテンツにタグ付けするための標準ポリシーが必要だと述べています。

この問題を踏まえて、WPPはAI規制についても積極的に取り組み、責任のあるAIモデルの構築をビジネスの懸念として述べています。

WPPはM&Aを4半期ごとに積極的に取り組む会社で、AIについてはSataliaという会社を買収しており、エンタープライズ向けにAIツールを提供してきており、当事者意識を持っているのです。

Satalia

WPPのCAIO(チーフAIオフィサー)のダニエル・ヒューム氏は、AIに関連するリスクについて、6つのアプリケーション(タスク自動化、コンテンツ生成、人間的な表現、データ予測と洞察、意思決定、能力拡張)社会におけるマイクロリスク、悪意のあるリスク、マクロリスクを指摘し、これら3つのリスクを区別することの重要性を強調し、AI利用に関する3つの質問を掲げています。

WPP & BCW
  1. 適切な意図や目的で設計されているか?
  2. 適用されるアルゴリズムは説明可能か?
  3. AIが引き起こす可能性のある害があればそれはなにか?

こうした内省を踏まえて、WPPはAIポリシー、データ&AI倫理原則とガイドライン、生成AI原則を整備しているとのことです。

AIの責任ある使用についての共通理解が実際には存在せず、この問題に取り組もうとする業界リーダーの姿勢が素晴らしいですね。

WPPのような、生成AI活用の基盤を先進的なパートナーと作り、そして顧客よりも先に社内のバックオフィス効率化を行いながら、規制を意識しながら顧客のクリエイティブに活かすというパイプラインづくりは大変参考になる事例です。

調査手法について

こちらの記事はデスクリサーチAIツール/エージェントのDeskrex.AIを使って作られています。DeskRexは市場調査のテーマに応じた幅広い項目のオートリサーチや、レポート生成ができるAIデスクリサーチツールです。

調査したいテーマの入力に応じて、AIが深堀りすべきキーワードや、広げるべき調査項目をレコメンドしながら、自動でリサーチを進めることができます。

また、ワンボタンで最新の100個以上のソースと20個以上の詳細な情報を調べもらい、レポートを生成してEmailに通知してくれる機能もあります。

ご利用をされたい方はこちらからお問い合わせください。

また、生成AI活用におけるLLMアプリ開発や新規事業のリサーチとコンサルティングも受け付けていますので、お困りの方はぜひお気軽にご相談ください。

XでもDeskrexの更新や生成AI・AIに関する最新情報を発信していますので、よろしければフォローしてみてください!

広告・出版・マスコミ

メディアを購読する

メディアの更新をメールでお知らせします。

冨田到をフォローする

コメント

タイトルとURLをコピーしました