EC・小売の市場リサーチAI|自社データで消える問いを引き、残りを賞味期限で仕分ける

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EC・小売の市場リサーチAI 自社データで問いを引き算するの記事アイキャッチ

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市場や競合を調べる仕事は、EC事業者や小売企業の担当者にとって「片手間でやるもの」になりがちです。本業は商品を仕入れて売ることで、調査の専任部署があるわけでもありません。それでも上司から「この商材、来年どうなの」と聞かれますし、競合が値下げを始めれば理由を知りたくなります。

そこでAIに聞いてみる。この流れ自体は自然だと思います。ただ、EC・小売の調べ方を考えているうちに、この業界には他とは決定的に違う前提がひとつあるという気がしてきました。この業界は、答えの半分をすでに自分の手元に持っているのです。

POS(レジで記録される販売データ)、購買ログ、サイト内の行動履歴。これらを大量に持っている業界は、実はそれほど多くありません。製薬会社は患者が実際に薬を飲んだかどうかのデータを持っていませんし、素材メーカーは自社の樹脂が最終製品でどう使われたかを知りません。ところが小売とECは、何がいつ何個売れたかを毎日記録し続けています。

この前提があると、リサーチの設計の順番が変わってきます。「何を調べるか」を考える前に、「何を調べなくていいか」を決めるところから始まるのです。

この記事では、EC・小売の担当者が市場・競合・トレンドを調べるときの設計を、3つの手順に分けて説明します。自社データで答えが出る問いを引き算し、残った問いをチャネルの穴で補い、最後に「その答えが何日で古くなるか」で自動化するかどうかを決める、という順番です。

  1. この記事の要点
  2. この業界の特殊事情|答えの半分はすでに自社にある
    1. 「調べる」と聞いた瞬間に外を見てしまう理由
    2. 粒度を決めるのは意思決定のほう
  3. 手順1|自社データで答えが出る問いの引き算
    1. 質問1|自社の商品・自社の顧客の話か
    2. 質問2|「何が起きたか」か、「なぜ起きたか」か
    3. 質問3|買った人の話か、買わなかった人の話か
    4. 引き算の結果を1枚の表にする
  4. 手順2|チャネル別に見る、データの穴が空く場所
    1. モールEC|遮断されているものがモールごとに違う
    2. 自社ECと実店舗|深いが薄い、広いが浅い
    3. 穴の位置を1枚の表にする
  5. 手順3|残った問いを「答えの賞味期限」で仕分ける
    1. 当日から数日|生鮮・日配
    2. 週単位|アパレルの売れ筋・消化率
    3. 半年から四半期|定番棚割
    4. 年単位から数年|出店・商圏
    5. 賞味期限マトリクス
  6. 賞味期限からAIの使い方が決まる|3つの分岐
    1. 1週間以内|仕組みにして自動で回す
    2. 四半期|都度、時間をかけて調べる
    3. 1年以上|人が一次資料を読む
    4. 予測モデル自体の陳腐化
  7. EC・小売でAIの答えがズレやすい4か所
    1. ズレ1|カテゴリ別のEC化率を全体の数字で代用してしまう
    2. ズレ2|すでに廃止された統計を現役として引いてくる
    3. ズレ3|出典そのものが間違っている
    4. ズレ4|アンケートの代わりに合成データを使ってしまう
  8. 調べる側から、調べられる側へ|リテールメディアとAI検索
    1. 自社の購買データが売り物になった
    2. AI検索の普及と、まだ小さい流入シェア
  9. 明日からの着手順
    1. 手順1|問いを20個書き出す
    2. 手順2|引き算する
    3. 手順3|残ったものに賞味期限を書く
    4. 手順4|1週間以内のものだけ仕組みにする
    5. 手順5|検証のルールを決めておく
  10. よくある質問
    1. Q1. 自社データがまだ整理されていません。先に外部リサーチをやってもいいですか
    2. Q2. モールにしか出していません。それでも自社データで答えが出る問いはありますか
    3. Q3. 賞味期限が長い問いは、AIに任せなくていいということですか
    4. Q4. AIが出してきた数字が正しいか、どうやって確かめればいいですか
    5. Q5. 競合の売上や価格を毎日調べたいのですが、AIでできますか
    6. Q6. アンケートを合成データで置き換えられますか
    7. Q7. AI検索への対策は、いま優先してやるべきですか
  11. この記事の数字をどこから取ったか
  12. 調査手法について

この記事の要点

机の上に1枚だけ置かれた要点カードを示す図解

先に結論を6つ置きます。

第一に、調べ始める前に引き算をしてください。「この問いは自社のPOSや購買ログで答えが出るか」を先に判定すると、外部に投げる問いは半分以下に減ります。減った分だけ、残った問いに時間をかけられます。

第二に、自社データの守備範囲は、売っている場所によって穴の位置が違います。楽天市場では購入者の実メールアドレスが見えませんが、氏名・住所・電話番号は受注データに含まれます。Amazonは2021年10月31日以降、FBA(Fulfillment by Amazon=Amazonの倉庫に商品を預けて発送を代行してもらう仕組み)の在庫出荷レポートから、購入者の名前と所在地住所そのものを削除しました(Amazonセラーセントラル)。同じ「モールだから顧客情報が取れない」でも、遮断されているものが違います。

第三に、外部に投げると決めた問いは、答えの賞味期限で仕分けます。生鮮食品の需要は当日から数日で変わり、アパレルの売れ筋は週単位で入れ替わり、スーパーの定番棚割は年2回しか変わりません。同じ「市場を調べる」でも、答えの寿命が3桁違います。

第四に、賞味期限が決まると、AIの使い方も自動的に決まります。答えが数日でなくなるものは仕組みにして自動で回し、四半期もつものは都度じっくり調べ、年単位のものは人が一次資料を読む。IBMはこの「意思決定サイクルとデータ更新サイクルのズレ」をデータの陳腐化の第一の原因として挙げています。

第五に、EC・小売でAIの答えが特にズレやすい場所が4つあります。なかでも危ないのがカテゴリ別のEC化率(そのカテゴリの商取引全体のうち、ネット通販が占める割合)です。2024年の日本のEC化率は物販系全体で9.78%ですが、書籍・映像音楽ソフトは56.45%、食品・飲料・酒類は4.52%と、約12.5倍の開きがあります。「EC市場は伸びています」という一般論を自分の商材にそのまま当てはめると外れます。

第六に、小売はいま「調べる側」であると同時に「調べられる側」にもなっています。国内のリテールメディア広告市場は2025年に6,066億円と推計され、2029年には1兆3,174億円まで拡大すると予測されています(CARTA HOLDINGS)。自社の購買データが収益源になったことで、データを整える理由が「分析のため」から「売り物にするため」へ変わりました。

この業界の特殊事情|答えの半分はすでに自社にある

窓の外を遠望する人の背後に、手つかずの資料が詰まった箱がある様子の図解

まず、いまEC・小売の現場でAIがどう使われているかを確認しておきます。

卸売業・小売業に従事する全国500名を対象にした調査では、生成AIの認知度は88.2%ある一方、業務で活用している人は24.3%でした。そして活用している人の用途で最も多かったのが「情報収集・リサーチ」の64.5%です(アルダグラム、2025年6月調査)。文章生成・要約・校正の54.2%より多く、需要予測・在庫管理の11.2%を大きく上回っています。

つまり、小売の現場で生成AIが最初に食い込んだのは、在庫でも接客でもなく「調べる仕事」でした。

一方で、事業としてのAI導入は進んでいません。年商1億円以上の通販事業に携わる300名への調査では、AI導入済みは12.7%です。しかも「導入済み」と「導入が決まっている」を合わせた32.7%は、2年前の2023年とまったく同じ数字でした。増えたのは「検討・情報収集中」の層だけです(エルテックス、2025年7月調査)。

この2つの調査を並べると、状況がはっきりします。個人が調べ物にAIを使うのは急速に広がったのに、会社としての設計は追いついていない。だから設計の話が要る、というのがこの記事の出発点です。

「調べる」と聞いた瞬間に外を見てしまう理由

設計がないと何が起きるでしょうか。担当者は「調べる」と聞いた瞬間に、外を見に行きます。検索し、業界レポートを読み、AIに聞く。

ところが、その問いの多くは自社のデータで答えが出ます。「先月いちばん伸びたSKU(商品の最小管理単位)はどれか」「このセットで買われる商品は何か」「新規とリピートで単価がどう違うか」。これらは外部に一切ないデータで、しかも自社なら確定値が出ます。

なぜ外を見てしまうのでしょうか。自社データにたどり着くのが遅いからです。

EC事業を展開する企業の経営層400人への調査によると、経営会議などで複数のデータをまたぐ集計を求められたとき、手元に届くまでに「2〜3日以上かかる」が38.0%、「1週間以上かかる、または算出できない」が10.5%でした。データの抽出・加工・レポート作成のためだけに月20時間以上を使っている企業が50.2%あります(メルカート調査、2026年5月公表)。

同じ調査で、データ統合が「すでに統合済み」なのは24.2%、「進行中」を足しても40.7%です。4社に1社しか、社内のデータをまたいで見られる状態になっていません。

自社データに3日かかり、AIに聞けば30秒で答えらしきものが返ってくる。どうやらこの時間差が、順番を狂わせているようです。ただ、30秒で返ってきたものは自社の数字ではありません。業界の平均か、どこかの記事に書いてあった数字です。自分の店の話を知りたかったはずなのに、他人の店の平均値を持ち帰ってしまう。心当たりのある方も多いのではないでしょうか。

粒度を決めるのは意思決定のほう

リサーチ設計の原則として、覚えておくと便利な一文があります。小売の需要予測を扱うStraiveの解説にある表現です。

The planning decision defines the granularity, not the other way around.

意訳すると「どこまで細かく見るかは、これから下す判断が決めるのであって、その逆ではない」となります。同記事は、店舗×SKU×日次という細かい予測は補充計画には本当に役立つが、3年先の品揃え戦略を決めるカテゴリ責任者にとっては、その解像度はノイズでしかない、と指摘しています。

この考え方を市場リサーチにそのまま持ち込みます。何を調べるかは、これから何を決めるかで決まる。そして何を決めるかが分かれば、その答えがどれくらいの期間もてばいいのかも決まります。

手順1|自社データで答えが出る問いの引き算

積まれた資料の山から数枚を抜き出して脇に分ける様子の図解

引き算は、次の3つの質問で判定できます。

  1. それは自社の商品・自社の顧客の話ですか
  2. 「何が起きたか」を聞いていますか、それとも「なぜ起きたか」を聞いていますか
  3. 買った人の話ですか、買わなかった人の話ですか

この3つを順に当てるだけで、外部リサーチに回す問いはかなり減ります。以下、1つずつ見ていきます。

質問1|自社の商品・自社の顧客の話か

「うちのA商品を買った人は、他に何を買っているか」は自社の話です。POSやID-POS(会員カードなどで顧客IDが紐づいた販売データ)があれば確定値が出ます。

「A商品カテゴリの市場規模はいくらか」は自社の話ではありません。外に出ます。

境界線が曖昧に見えるのは「うちのリピート率は業界平均より高いのか」のような問いです。これは2つに分解できます。「うちのリピート率はいくつか」は自社データで確定します。「業界平均はいくつか」は外部です。分解してから、それぞれ別のルートで取りに行きます。

質問2|「何が起きたか」か、「なぜ起きたか」か

POSデータで取れるのは、いつ(日付・時間帯)、どこで(店舗・レジ)、何が(商品名・JANコード=商品パッケージのバーコードに入っている識別番号・カテゴリ)、いくらで(単価・値引き額)、何個(数量)売れたか、の5つです。

ここに「なぜ」は含まれません。ある商品の売上が落ちたとき、POSは「落ちた」という事実は教えてくれますが、競合店がセールをしていたからなのか、気温が急に下がったからなのか、パッケージが不評だったからなのかは判別できません(インパクトホールディングス)。

「何が起きたか」は自社データ、「なぜ起きたか」は自社データで事実を固めたうえで外部で仮説を取りに行く。この分担になります。順番が大事で、事実を確定させないまま外で理由を探すと、そもそも起きていないことの理由を調べる羽目になります。

質問3|買った人の話か、買わなかった人の話か

これが3つのなかでいちばん見落とされます。

小売店の買上率、つまり店に入った人のうち実際に買う人の割合は10〜20%前後といわれています(技研トラステム)。残りの8割から9割の人については、実店舗にデータが存在しません。棚の前で手に取って戻した人も、値札を見て諦めた人も、記録されないまま帰っていきます。

ECならカゴ落ちの記録が一部残りますが、それも「カゴに入れるところまでは行った人」だけです。検索して、結果を見て、何も押さずに離脱した人の意図は分かりません。

だから「なぜ買わなかったのか」「何と比較して選ばなかったのか」は、構造的に自社データの外側にあります。ここはアンケートやインタビュー、あるいは外部のレビュー・SNSの声を取りに行くしかありません。

引き算の結果を1枚の表にする

3つの質問を通すと、問いは次のように分かれます。

よくある問い どこで答えるか 補足
先月いちばん伸びたSKUはどれか 自社データのみ 外部には存在しないデータです
A商品とB商品を一緒に買う人はどれくらいいるか 自社データのみ(ID-POS) 顧客IDが紐づいていることが条件です
新規顧客とリピート顧客で単価がどう違うか 自社データのみ ID-POSまたは自社ECの購買履歴
うちのリピート率は業界平均と比べてどうか 分解して両方 自社の値は確定、業界平均は外部
先月Aの売上が落ちた理由は何か 事実は自社、仮説は外部 順番を逆にしないこと
このカテゴリは来年伸びるか 外部のみ 統計・業界調査・一次資料
競合が今週いくらで売っているか 外部のみ 賞味期限が極端に短い問いです
なぜ買わずに帰ったのか 外部のみ 自社に構造的にデータがない

この表を作るだけで、外部に投げる問いはかなり減ります。減った分は、そのまま残りの問いに使える時間になります。

手順2|チャネル別に見る、データの穴が空く場所

4つの容器がそれぞれ違う位置に欠けを持っている様子の図解

自社データで答えが出る、と判定した問いでも、実際に取れるかどうかは「どこで売っているか」で変わります。ここを知らないまま「自社データで分かるはず」と決めてしまうと、後で手が止まります。

モールEC|遮断されているものがモールごとに違う

楽天市場では「楽天あんしんメルアドサービス」により、店舗は購入者の実メールアドレスを参照できません。店舗に渡るのは暗号化されたマスクアドレスです。この仕組みは2010年5月から全店舗に順次導入されました(楽天市場 出店サポート)。

さらに楽天の出店の注意事項には、こう明記されています。

楽天市場で集めた顧客情報に自社サイトの広告を行うことなどは禁止されています。退店後は、商品データや顧客データはすべて消去いたします。再出店の際にもご利用いただけません。また、退店時に顧客データの抽出は行っておりません。

一方で、楽天の受注データには注文者の氏名・カナ・郵便番号・住所・電話番号が含まれます。つまり楽天が遮断しているのは「連絡チャネル」と「二次利用」であって、属性情報そのものではありません。

Amazonは性格が違います。出品者は購入者の実メールアドレスを見られず(暗号化エイリアスで中継されます)、マーケティングやプロモーションのメッセージ送信もコミュニケーションガイドラインで禁止されています。加えて2021年10月31日以降は、FBA在庫出荷レポートから購入者の名前と所在地住所そのものが削除されました。

楽天は「連絡させない・持ち出させない」、Amazonは「属性そのものを渡さない」。同じ「モールでは顧客情報が取れない」でも、この違いで打ち手が変わります。楽天なら同梱物や配送先の地域分布から仮説が立てられますが、Amazonではそれも難しくなります。

その代わりAmazonには、他にない強みがあります。Amazonブランド分析の「検索クエリパフォーマンス」では、検索キーワードごとのインプレッション数・クリック数・カート追加・購入件数に加えて、そのクエリにおける自社ブランドのシェアまで確認できます(link-ec)。外部の推定ツールと違い、これは実測値です。

ただし利用にはAmazonブランド登録が必要で、ブランド登録には原則として登録商標が要ります。商標登録には数か月から1年かかるため、商標を持たない出店者はそもそもこのデータに触れられません。

もうひとつ注意点があります。Amazonの「リピート購入行動レポート」で見えるのは、リピート注文商品の売上額・ユニット数・リピートカスタマー数・シェアです。つまり「何人がリピートしたか」は分かりますが、「誰がリピートしたか」は分かりません(Amazonセラーセントラル)。個人を追いかける分析はモールの外側でしかできない、と理解しておいてください。

自社ECと実店舗|深いが薄い、広いが浅い

自社ECは、Shopifyの整理によれば、アイデンティティ(誰か)・行動(何をしているか)・エンゲージメント(どうやり取りするか)・態度(何を考え感じるか)の4種類の顧客データを持てます。検索キーワード、絞り込み条件、流入元、閲覧ページ、滞在時間まで自社に残ります。

その代わり、モールのように向こうから人が来てくれるわけではありません。データの粒度は深いのに、サンプル数が薄いという非対称が起きます。月に100件しか注文がない自社ECで「顧客セグメント別の傾向」を出しても、数字がぶれるだけです。

実店舗のPOSは逆で、サンプル数は多いけれど、誰が買ったかが分かりません。ID-POSを入れれば顧客IDが紐づきますが、紐づくのは会員だけです。

ここで気をつけたいのが「捕捉率」です。日本のスーパーマーケットのポイントカード導入率は86.7%あります(全国スーパーマーケット協会ほか、283社調査)。ただしこれは「チェーンが制度を導入しているか」であって、「レジを通る買い物のうち何割にIDが紐づくか」ではありません。この2つを混同すると、「うちのID-POSは86%をカバーしている」という誤解が生まれます。

流通経済研究所の「ID-POSデータ活用検定」は、注意点の筆頭に購買捕捉率を置き、続けて「『当社の製品は優良顧客に買われています』の問題点」を並べています。捕捉率のバイアスが分析結論を歪める、というのは業界内で体系化された論点です。

実測例もあります。和歌山大学とオークワの共同研究で使われた店舗は、会員カード保有率が70%以上ありました。ところが同じ論文は、その高さが逆に「店内を熟知した顧客が多く、店内を迷わず購入する人が多い」というサンプルの偏りを生む、と分析の前提として明記しています(情報処理学会論文誌 Vol.63 No.1)。捕捉率が高ければ良い、という単純な話ではありません。

穴の位置を1枚の表にする

取りたいもの Amazon 楽天市場 自社EC POS ID-POS
実メールアドレス 取れない 取れない(マスク) 取れる 取れない 会員登録時のみ
氏名・住所・電話 2021年10月に削除 受注データに含まれる 取れる 取れない 会員分のみ
顧客ID紐付きの購買履歴 集計値のみ 新規・リピート別の人数 個人単位で取れる 取れない 会員分のみ
サイト内行動 取れない アクセス人数・参照元・検索語 ページ単位・滞在まで 対象外 対象外
検索キーワード ブランド分析(要商標) R-Karteの商品別検索語 サイト内検索のみ 対象外 対象外
買わなかった人 取れない 取れない カゴ落ちなど一部 取れない 取れない
撤退後のデータ 対象外 全消去・抽出不可 自社に残る 残る 残る

この表で穴になっている場所が、外部リサーチで埋めるべき場所です。逆に、埋まっている場所を外部で調べるのは時間の無駄になります。

手順3|残った問いを「答えの賞味期限」で仕分ける

大きさの違う保存容器と、高さの違う砂時計が並ぶ様子の図解

引き算して、チャネルの穴も確認して、それでも外部に投げると決まった問いが残ります。ここからが2つ目の芯です。

小売の意思決定は、商材によってサイクルの速さがまったく違います。そしてサイクルが違うということは、調べた答えが使いものにならなくなるまでの時間も違うということです。

当日から数日|生鮮・日配

いちばん速いのがここです。

ライフコーポレーションは、BIPROGYの需要予測型自動発注「AI-Order Foresight」を2021年2月に日配品で全278店に導入しました。このとき自動算出していたのは5日先までです。その後2024年4月までに全304店の生鮮部門へ適用を広げた際、算出期間を5日間から3週間に拡大しています。生鮮はプロセスセンター(複数店舗分の肉や魚をまとめて加工する自社の加工拠点)やメーカーへ計画数量を事前に伝える必要があるため、より先まで読む必要があった、と理由も明記されています(BIPROGY、2024年2月)。

ベイシアはもっと細かく見ています。全136店舗に導入したsinops-CLOUDでは、POSシステムから1時間ごとに在庫・売上情報を取得し、そこから導く販売実績と販売価格に天候とイベント情報を加えて予測を実行しています(DIGITAL X、2025年7月)。

ローソンは2024年7月に次世代発注システム「AI.CO」の全国店舗への導入を完了しました。弁当やデザートなど消費期限の短い商品が対象で、発注数だけでなく値引きの額とタイミングまで推奨します(日経クロステック)。

この領域では、1日ずれるだけで結果が変わります。流通経済研究所の実証では、パンの需要予測を「1日前」と「2日前」で比べると精度自体はほぼ変わらない(相関係数0.88対0.84、MAPE=予測が実績から平均何%ずれたかを表す指標が5.4%対5.6%)ものの、発注を1日前倒しすると在庫と廃棄が2〜3%増える、という結果が出ています(流通経済研究所)。

週単位|アパレルの売れ筋・消化率

アパレルでよく語られるのが「52週MD」です。1年を52週に分け、週ごとに計画と実績を突き合わせて修正していく考え方を指します。

なぜ週が単位になるのでしょうか。実務者の説明が分かりやすいので引用します。土日と平日で売上に2倍から3倍の差があるため、日単位で見ても傾向が読めない。かといって月単位では「3月1日と3月31日では売れるものが同じわけありません」と粗すぎる。だから週合計が分析の単位になる、というものです(note)。

ただし、52週MDの理解には注意が要ります。「毎週新しい商品を仕入れて売場を変えること」だと誤解されがちですが、Demand Worksの資料はこれを「大きな誤解」と明記しています。本質はピーク週に向けて毎週仮説を修正していくことにある、という整理です。

さらに、52週MDそのものへの反論もあります。ビジネスコンサルタントの小島健輔氏は、52週MDは品揃えと消化進行管理の精度を測るものであってMDサイクル(商品投入のサイクル)ではない、と述べています。根拠として在庫回転を挙げ、H&Mが2.92回、ユニクロが2.68回、インディテックスが5.01回で、週サイクルで新商品を投入しても現実の在庫回転は大差ない、と指摘しています(WWDJAPAN)。

この論点はまだ決着していません。記事や資料で「アパレルは週次で回すもの」と書かれていても、それは業界の一部の運用であって全体の合意ではない、と押さえておいてください。AIに「アパレルのMDサイクルは」と聞くと、この対立があること自体は出てこず、通説だけが返ってきます。

私はこの手の「業界内で意見が割れている論点」こそ、AIに調べさせるときのいちばんの落とし穴だと思っています。数字の間違いなら出典を開けば気づけますが、「反対意見が存在すること自体が省かれている」のは、元の議論を知らないと気づきようがないからです。

半年から四半期|定番棚割

日本のスーパーマーケットでは、各商品カテゴリの棚割が年に2回、3月と9月に変更されるのが商習慣として定着しています。横浜国立大学の論文は、この年2回の定期的な棚割変更のために、小売業だけでなく卸売業・製造業も相当な労力と調査・分析費用を投入している、と述べています。

同じ論文が興味深いのは、この慣行を当たり前として扱っていないところです。2012年5月の米国ヒアリング調査で「米国市場の小売業においては、日本と同様に季節毎の気温の差が大きい地域であっても春・秋ごとの定期的な棚割変更を行っていない」ことを確認し、年2回が普遍的な最適解ではないと問題提起しています(横浜国立大学)。

棚替えの実務は4層に分かれます。定番棚の季節棚替えが年2回、52週MDが毎週、新商品の入れ替えが毎月から四半期、セール対応が随時です(エイジス)。同じ売場のなかに、速さの違う時計が4つ動いています。

年単位から数年|出店・商圏

いちばん遅いのがここです。大手小売の出店計画は3年単位の中期経営計画で数量が決まります。トライアルホールディングスは、2027年6月期から2029年6月期の3年間で新規135店舗・閉店50店舗、店舗数を367から478へ、という計画を公表しています(トライアルHD)。

商圏分析に使う統計はさらに遅いものがあります。国勢調査は5年ごと、経済センサス-活動調査も原則5年に1回です。次回の経済センサス-活動調査は令和8年(2026年)6月1日に予定されています(国立国会図書館)。

ここで落とし穴をひとつ挙げておきます。商圏分析の解説記事の多くが、いまも「商業統計調査」を現役のデータとして挙げています。ところが経済産業省の公式ページによれば、商業統計調査は平成26年(2014年)調査をもって廃止されています(経済産業省)。10年以上前になくなった統計です。

なお、静的な統計と動的なデータでは更新頻度が桁違いです。国勢調査ベースの商圏データが5年に1度なのに対し、スマートフォンのGPS位置情報による人流データは日次・時間単位で更新されます(Location AI)。同じ「商圏を調べる」でも、どちらを見ているかで答えの寿命が変わります。

賞味期限マトリクス

賞味期限 対象になる問い 代表的な事例
数時間から当日 デイリー商品の発注数、値引きのタイミング ベイシアの1時間ごとPOS取得、ローソンのAI.CO
数日 日配・生鮮の需要、天候による変動 ライフの5日先予測
数週間 生鮮のプロセスセンター事前発注 ライフの生鮮3週間先予測
1週間 売れ筋・死に筋、消化率、追加発注と値下げ アパレルの52週MD(ただし業界内に異論あり)
1か月 本部の店舗別・品目別販売計画、人流データ更新 バローグループの月次販売計画
四半期から半年 定番棚割、新商品の入れ替え、家電のモデルチェンジ スーパーの3月・9月棚替え
1年 全社年間計画、年数回の出店判断 各社の年間計画
3年から5年 出店計画、国勢調査、経済センサス トライアルHDの3年中計

バローグループと中部フーズが農林水産省のタスクフォースに提出した資料には、惣菜のオペレーションが年次・月次・週次・日次の4階層で回っている業務プロセス図が掲載されています。年次が全社年間計画、月次が本部の店舗別・品目別販売計画、週次が週間発注と週次生産計画、日次が修正発注です。注記には「ほぼ毎日修正発注を実施」「確定発注は2日前」とあります(農林水産省)。

自分の会社がこの4階層のどこで動いているかを確認してから、リサーチの頻度を決めてください。

賞味期限からAIの使い方が決まる|3つの分岐

回し続ける・じっくり読む・本を開くという3つの作業姿勢を並べた図解

ここまでで、外部に投げる問いと、その答えの賞味期限が出ました。あとは機械的に分岐します。

1週間以内|仕組みにして自動で回す

答えが数日でなくなるものを、そのたびに人が手で調べるのは合いません。同じ質問を、同じ形式で、決まった間隔で自動的に投げる仕組みにします。

たとえば競合価格のモニタリングなら、こういう形になります。

以下の条件で、毎週月曜朝の時点の状況を同じ形式でまとめてください。

対象商品: (自社SKUと対応する競合SKUのリスト)
確認する項目:
  1. 各競合の現在の販売価格(税込・送料別を明記)
  2. 前回確認時からの変化(上がった/下がった/変わらない、変化額)
  3. ポイント倍率・クーポン・セット割の有無
  4. レビュー件数と平均評点、前回からの増分
出力形式: 表1枚。変化がなかった行には「変化なし」とだけ書く
出典: 各行に確認したページのURLを付ける
前提: 推測で埋めない。確認できなかった項目は「未取得」と書く

重要なのは形式を固定することです。毎回フォーマットが変わると、人が読むときに差分を追えません。同じ形で出させて、人が見るのは「前回から変わったところ」だけにします。

もうひとつ、更新頻度をそろえてください。IBMはデータの陳腐化の根本原因の第一に「更新頻度の不一致」を挙げ、こう説明しています。

リアルタイムの意思決定システムに毎週のバッチ処理ジョブからデータを供給する場合、信頼性の低いアウトプットにつながる構造的なミスマッチが発生します

日次で発注を決める業務に、週次で更新される競合データを流し込んでも噛み合いません。そして噛み合っていないことに気づきにくいのが、この問題の厄介なところです。IBMは同じ記事で「陳腐化したデータは、実際には信頼性がないにもかかわらず、信頼できるように見せかけます。システムは動作し続け、意思決定も継続されます」とも書いています。

四半期|都度、時間をかけて調べる

棚替えや商品リニューアルのタイミングで必要になる調査は、年に2回から4回です。自動化しても回数が少なく、回数が少ないぶん1回の精度が問われます。

ここは仕組みにせず、都度、時間をかけてください。使うAIも変わります。1回の質問で答えを出させるのではなく、複数のソースを横断して調べさせ、出典を全部並べさせるタイプの使い方が向きます。

1年以上|人が一次資料を読む

出店判断や中期の商材戦略のように、答えが年単位でもつ問いは、逆にAIだけで済ませてはいけません。もつということは、間違えたときに間違えたまま長く使われるということだからです。

この層では、AIの役割を「どの一次資料を読むべきかを教えてもらう」ところまでに絞ります。経済センサスのどの表を見ればいいのか、経済産業省のどの調査に該当する数字があるのか、といった案内までをしてもらい、そこから先は人がPDFを開いて読みます。

予測モデル自体の陳腐化

もうひとつ、忘れられがちな点があります。データだけでなく、予測の仕組みそのものも陳腐化します。

Straiveは「2024年以前の市場状況で学習したモデルを、再学習せずに2026年に走らせているなら、それはすでにドリフトしている。静かに」と書いています。そして、監視と再学習のサイクルを最初から組み込んだ小売は、大口の取引先から数字がおかしいと指摘されて初めてドリフトに気づいた企業に対して、実質的な優位を持つ、と続けています(Straive)。

社内で需要予測AIを使っているなら、その学習データがいつまでのものかを一度確認してみてください。

EC・小売でAIの答えがズレやすい4か所

道の上に4つのくぼみが等間隔に空いている様子の図解

ここからは、実際にAIに調べさせたときに間違いが混ざりやすい場所を挙げます。この業界に固有のものから順に並べます。

ズレ1|カテゴリ別のEC化率を全体の数字で代用してしまう

いちばん実害が出やすいのがこれです。

経済産業省の「令和6年度 電子商取引に関する市場調査」によれば、2024年の日本のBtoC-EC(企業が消費者に売る電子商取引)の市場規模は26兆1,225億円で、前年比5.1%増でした。物販系分野は15兆2,194億円、EC化率は9.78%です(経済産業省 公表資料)。

問題は、この9.78%がカテゴリによってまったく違うことです。

カテゴリ 2024年の市場規模 EC化率
書籍、映像・音楽ソフト 1兆8,708億円 56.45%
生活家電、AV機器、PC・周辺機器等 2兆7,443億円 43.03%
生活雑貨、家具、インテリア 2兆5,616億円 32.58%
衣類・服装雑貨等 2兆7,980億円 23.38%
化粧品、医薬品 1兆150億円 8.82%
食品、飲料、酒類 3兆1,163億円 4.52%
自動車、自動二輪車、パーツ等 3,336億円 4.16%

書籍の56.45%と食品の4.52%では、約12.5倍の開きがあります。食品を扱っている事業者が「日本のEC化率は約10%」という数字を前提に計画を立てると、実際の自分の市場(4.52%)の倍以上を見込むことになります。

さらに細かい点ですが、EC化率の分母にも注意が必要です。同じ調査の注記によれば、BtoC-ECのEC化率は物販系分野のみが算出対象で、サービス系とデジタル系は分母から除外されています。「BtoC-EC全体のEC化率が9.78%」という言い方は不正確で、正しくは「物販系のEC化率が9.78%」です。

こうした注記は、AIに要約させると真っ先に落ちます。市場規模の数字を扱うときは、必ず元の資料の注記まで自分で見てください。

もうひとつ、意外な事実として、書籍・映像音楽ソフトは2024年に市場規模が前年比0.84%のマイナスに転じています。EC化率が高いカテゴリが必ずしも伸びているわけではない、という例です。

ズレ2|すでに廃止された統計を現役として引いてくる

賞味期限の章で挙げた商業統計調査がその代表です。

経済産業省の公式ページには、昭和27年に調査を開始して以来、当初は2年ごと、その後3年ごと、5年ごとと周期が長期化し、経済構造実態調査の創設により平成26年調査をもって廃止された、と書かれています。

にもかかわらず、商圏分析の解説記事の多くが、いまも商業統計調査を使えるデータとして紹介しています。AIはそうした記事を学習しているので、聞くとそのまま返してきます。

対策は単純で、AIが挙げた統計名を1つずつ、その統計を出している官庁のページで存在確認することです。5つ挙がってきたら5つとも確認します。時間はかかりますが、廃止された統計を根拠に出店を決めるよりはるかに安く済みます。

ズレ3|出典そのものが間違っている

AIが出す出典の正確性については、実測データがいくつかあります。

コロンビア大学ジャーナリズムレビューのTow Centerは、8つのAI検索ツールに実在するニュース記事の抜粋を渡し、見出し・媒体・発行日・URLを特定させるテストを行いました(8ツール×200テストで計1,600クエリ)。結果は、60%を超える問い合わせで誤った回答が返ってきています。ツール別ではPerplexityが37%、ChatGPT Searchが67%(200件中134件)、Grok 3にいたっては94%が誤りでした(Columbia Journalism Review、2025年3月)。

スタンフォード大学のRegLabは、RAG(検索した文書を根拠に回答を生成する仕組み)を使う商用の法律リサーチツールを事前登録型の設計で評価しました。ベンダーが「幻覚を排除した」と謳っていた製品を含めて、17%から33%の確率で幻覚が起きています。正答率はLexis+ AIが65%、Westlaw AI-Assisted Researchが41%、Ask Practical Law AIが19%でした(Stanford RegLab / HAI)。

ディープリサーチ系のエージェントについても評価があります。DeepResearch Benchという評価セットでは、引用の正確性(引用元が本当にその主張を支持しているか)がPerplexity Deep Researchで90.24%、Gemini-2.5-Pro Deep Researchで81.44%、OpenAI Deep Researchで77.96%でした(arXiv:2506.11763)。裏返すと、OpenAI Deep Researchの引用のおよそ22%は、引用元がその主張を支持していないことになります。

これらの数字から読み取るべきは「AIを使うな」ではありません。「AIが付けた出典は、付いているだけでは根拠にならない」ということです。数字を社内資料に載せる前に、出典URLを開いて、その数字が本当に書いてあるかを確認する工程を必ず挟んでください。

なお「幻覚率」の数字を見るときは、テストの設定を確認してください。要約元の文書を与える設定のベンチマークでは上位モデルが2%未満に収まる一方、文書を与えないオープンドメインの設定では16%から33%以上に跳ね上がります。同じモデルでも1桁変わるので、設定を書かずに数字だけ引用されているものは信用しないでください。

ズレ4|アンケートの代わりに合成データを使ってしまう

生成AIで仮想の回答者を作り、アンケートを代替するという話が出ています。市場調査担当者の71%が「3年以内に市場調査の過半数が合成レスポンスで行われる」と考えている、という調査もあります(Qualtrics、14か国3,000名超)。

ただ、実際に検証した研究の結果は厳しいものです。

ミュンヘン大学の研究チームは、3つのLLM(大規模言語モデル。ChatGPTなどの土台になっている技術)に、実際の人口構成に合わせた26,000人分の欧州有権者プロフィールを与え、2024年の欧州議会選挙での投票行動を予測させました。モデルの平均予測投票率は83%でしたが、実際の投票率は49%でした。研究チームは「LLM生成の合成サンプルは世論予測への適用可能性が限定的」と結論づけています(arXiv:2409.09045)。

合成データの使いどころについては、Netquest-BilendiのCarlos Ochoa氏の整理が分かりやすいです。既存の行動を推定する「記述的な用途」ではそれなりに機能するけれど、それは既存の二次データを探せば済む話で、そもそもアンケートを必要としません。問題は「予測的な用途」のほうで、新商品を何%が買うか、なぜあるブランドを選ぶか、といった問いは学習データに確たる証拠がないため機能しない、という整理です(Quirks)。

EC・小売の文脈に置き換えると、こうなります。「この価格帯の商品を買う層はどんな属性か」は既存データから推定できるかもしれない。しかし「まだ世に出していないこの新商品を、いくらなら買うか」は合成データでは分かりません。後者こそ商品企画が知りたいことなので、そこには使えないと考えておくのが安全です。

実際、Greenbookの調査では、定性調査のセグメントで合成サンプルの利用者が前年から18ポイント減少しています。話題としては盛り上がっているのに、実際に使った人は離れている、という状況です。

調べる側から、調べられる側へ|リテールメディアとAI検索

望遠鏡で見る人が、反対側からも望遠鏡で見られている様子の図解

最後に、EC・小売を取り巻く環境の変化を2つだけ短く触れます。どちらも「調べ方」に直接影響します。

自社の購買データが売り物になった

国内のリテールメディア広告市場は、2025年に6,066億円と推計されています。内訳はEC事業者が5,236億円、実店舗を持つ事業者が830億円です。2029年には1兆3,174億円まで拡大する予測が出ています(CARTA HOLDINGS / デジタルインファクト、2026年1月)。

小売が売っているのは広告枠だけではありません。購買データそのものが商品になっています。

ファミリーマート陣営のデータ・ワンは、購買データが紐づいたIDを4,200万以上保有し、これをYouTube・LINE・X・TikTok・Instagramといった外部メディアへの広告配信のターゲティングに使っています。伊藤忠商事の説明資料によれば、この構想は5,000万ID・流通総額10兆円規模を目指しています(伊藤忠商事、2025年6月)。

セブン-イレブン・ジャパンは、電通・サイバーエージェントとの合弁会社「セブン-イレブン・アドコネクト」を2026年9月1日から事業開始します。約22,000店舗とアプリ会員約2,800万人が基盤です(電通、2026年6月)。

米国ではWalmartがさらに進んでいて、購買・在庫データをサプライヤーに販売する部門(Walmart Data Ventures)のプラットフォームが、リテールメディア事業のWalmart Connectと接続されています。データ分析の結果からそのまま広告出稿に進める導線が作られていて、データ販売と広告販売が1本のパイプラインに統合されています(Walmart、2025年10月)。

この変化は、社内でデータ整備の予算を取る理由を変えます。これまでは「分析の精度を上げるため」でしたが、いまは「売り物にするため」という理由が加わりました。CARTAの調査も、広告主側の予算の出所が営業部門の販促費からマーケティング部門の広告宣伝費へ移りつつあることを、市場拡大の構造的な要因として挙げています。

ここは今後もう一段進む気がしています。データを売る側になると、そのデータの正確さや粒度が値段に直結します。社内分析だけなら「だいたい合っていればいい」で済んでいたものが、外に出す商品になった瞬間に品質責任が発生します。結果として、リテールメディアを持つ小売ほど自社データがきれいになり、そのきれいなデータで自分たちの調べ物も速くなる、という順番で効いてくるのではないでしょうか。

ひとつ知っておくと便利な事実があります。電通の「日本の広告費」には、まだ「リテールメディア広告費」という独立した項目がありません。いちばん近いのが「物販系ECプラットフォーム広告費」で、2025年は2,444億円です(電通)。ただしこれは出店事業者がそのプラットフォーム内に投下した広告費のみを指す定義で、外部配信や実店舗系のリテールメディアは含みません。CARTAの6,066億円とは定義が違うので、足し合わせることはできません。

業界標準の指標がまだ固まっていない領域だ、ということです。この段階の市場について「市場規模はいくらか」とAIに聞くと、定義の違う数字が混ざって返ってきます。数字を採用する前に、それがどの調査のどの定義かを必ず確認してください。

AI検索の普及と、まだ小さい流入シェア

日本で「検索行動」に生成AIを使う人は、2026年2月時点で37.0%です。2025年5月の21.3%、同年10月の31.1%から、9か月で15.7ポイント上がりました。さらにAIのおすすめをきっかけに実際に商品購入やサービス利用をした経験がある人は47.5%います(サイバーエージェントGEOラボ、全国10〜60代 9,278名)。

数字だけ見ると、いますぐ対応が必要に見えます。ただ、実際にサイトへ届く流入の話になると景色が変わります。

990億セッション・6,500サイトを実測したContentsquareの調査では、AI経由のトラフィックは全訪問のわずか0.2%でした(2025年第4四半期)。前年比では632%成長していますが、それはこの0.2%という分母の上での話です(Contentsquare)。

日本でも同様で、GA4(Googleアナリティクス4。サイトへの訪問を計測する無料ツール)の実測では、生成AI経由セッションの割合は最大のサイトでも1%未満でした(PLAN-Bマーケティングパートナーズ、2025年2〜4月)。

コンバージョン率のほうは、この1年で状況がはっきり動きました。Adobeが2025年3月に公表した米国小売サイトの実測では、生成AI経由の訪問は他チャネルと比べて9%コンバージョンしにくい状態でした。ただし同じ記事は、2024年7月と比べれば大きく改善している、直帰率は23%低く、1訪問あたりの閲覧ページ数は12%多い、とも書いています(Adobe Blog)。買う率は低いが、よく読んでいる訪問者だったわけです。

そこから1年あまりで逆転しました。2026年のPrime Day初日にAdobeが計測したところ、AI経由の流入は前年比98.3%増で、コンバージョン率は他のどのチャネルよりも50.7%高くなっています(CMSWire)。

ただし日本の実測は別の絵を描いています。先ほどのGA4調査では、生成AI経由のコンバージョン率が他チャネルより高かったサイトは35.1%にとどまりました。測定時期が1年以上ずれているので直接の矛盾とは言えませんが、「AI経由は必ずコンバージョンが高い」と自社に当てはめるのは早いと考えられます。自社のGA4で、AI経由セッションを分けて見るところから始めてください。

EC事業者にとって重要な但し書きがもうひとつあります。Google AI Overviews(検索結果の最上部にAIが要約を表示する機能)が出るクエリのうち、取引意図のクエリは1.76%、商業調査系は8.69%にとどまるという調査があります(Semrush)。ゼロクリックの影響は情報収集系のクエリに集中していて、購入直前のクエリへの直撃は、報道されている数字ほど大きくない可能性があります。

とはいえ、準備しておく価値はあります。Adobeは同じ調査で、小売サイトの相当な部分が機械にとって読み取れないまま残っており、AI検索での見つけられやすさを下げていると警告しています(CMSWire)。

ここで手を入れる順番は、賞味期限の考え方と同じで「どこから効くか」で決めます。商品詳細ページはもともと型が決まっていて機械にも読みやすい構造になっていることが多いので、先に直すべきは入口と説明のページです。トップページ、サイト内検索の結果ページ、選び方ガイドのような読み物。ここが読み取れる形になっているかを、まず確認してください。

明日からの着手順

低いほうから順に上がっていく4段の階段を示す図解

ここまでの内容を、着手できる形にまとめます。段階を追って進めてください。

手順1|問いを20個書き出す

直近3か月で、社内から実際に聞かれた質問、あるいは自分が調べようとした質問を20個書き出します。思い出せる範囲で構いません。抽象的な「市場調査」ではなく、「先月なんでAが落ちたのか」「競合Bの新商品の価格は」といった具体的な言い回しのまま書きます。

言い回しを変えずに書くのがコツです。整えた瞬間に、実際に困っていた粒度が消えてしまうからです。

手順2|引き算する

20個それぞれに、この記事の手順1で挙げた3つの質問を当てます。自社の話ですか。何が起きたかを聞いていますか、なぜ起きたかを聞いていますか。買った人の話ですか、買わなかった人の話ですか。

この段階で、半分近くが「自社データで答えが出る」側に移るはずです。移ったものについては、外部リサーチの対象から外します。代わりに「その自社データを何日で出せるか」を確認してください。もし3日かかるなら、それを短くするほうが外部リサーチより投資対効果が高い可能性があります。

手順3|残ったものに賞味期限を書く

外部に残った問いに、答えの寿命を書き込みます。1週間以内、1か月、四半期、1年以上の4段階で十分です。自分の商材のサイクルが分からなければ、この記事の賞味期限マトリクスを見てください。

手順4|1週間以内のものだけ仕組みにする

賞味期限が短いものから順に自動化します。全部を一度に仕組みにしようとすると、たいてい途中で止まります。まず1つ、たとえば競合価格のモニタリングだけを固定フォーマットで回してみて、2週間ほど続けてから次に進みます。

手順5|検証のルールを決めておく

AIが出した数字を社内資料に載せるときのルールを、先に決めます。最低限、次の3つを決めておいてください。

  1. 出典URLを開いて、その数字が実在するかを確認します
  2. 統計名が挙がったら、官庁のページでその統計がいまも続いているかを確認します
  3. カテゴリ別の数字が必要なときは、全体の数字で代用しません

この3つを守るだけで、この記事で挙げた4つのズレのうち3つは防げます。ルールを先に決めておくのが大事で、数字を見つけた後だと「これは大丈夫そう」と自分に甘くなります。

よくある質問

疑問符とチェックマークが入った2つの吹き出しの図解

Q1. 自社データがまだ整理されていません。先に外部リサーチをやってもいいですか

やっても構いませんが、外部リサーチの結果を自社の判断に使うときに困ります。「業界平均のリピート率は30%」という数字を得ても、自社が何%か分からなければ、高いのか低いのか判断できないからです。

順番としては、外部リサーチと並行して、まず1つか2つの指標だけを自社データから出せる状態にすることをおすすめします。全社的なデータ統合基盤を作る話ではなく、「月次のリピート率だけは3日以内に出せる」という状態を作る、という粒度です。

Q2. モールにしか出していません。それでも自社データで答えが出る問いはありますか

あります。手順2で見たとおり、モールでも取れるものはかなりあります。

楽天なら、RMS(出店者向けの管理画面)とR-Karte(その中の分析ツール)で、アクセス人数・転換率・客単価・商品別の検索キーワード・参照元・新規とリピート別の購入顧客数が取れます。Amazonでブランド登録をしていれば、検索クエリごとのインプレッション・クリック・購入件数と自社ブランドのシェアが実測値で見られます。

取れないのは、個人を継続的に追いかける分析です。「この顧客が3回目に何を買ったか」はモールでは分かりません。逆に言えば、それ以外の多くの問いはモールのデータで答えが出ます。

Q3. 賞味期限が長い問いは、AIに任せなくていいということですか

任せる範囲を変える、という意味です。

賞味期限が長い問いほど、間違えたときにその間違いが長く残ります。出店判断を間違えると数年単位で影響します。だからこの層では、AIには「どの一次資料を見るべきか」の案内までをしてもらい、数字の読み取りは人がやります。

逆に賞味期限が短い問いは、多少の誤差があっても翌週には更新されるので、AIに任せる範囲を広げられます。

Q4. AIが出してきた数字が正しいか、どうやって確かめればいいですか

3段階で確認します。

まず、出典URLを実際に開きます。開けないURLや、開いても該当する記述がないURLは、その時点で使えません。前述のとおり、ディープリサーチ系でも引用の2割前後は引用元がその主張を支持していないという評価結果があります。

次に、その数字が「実績」なのか「推計」なのか「予測」なのかを確認します。この記事で挙げたリテールメディアの6,066億円も、調査機関の推計値であって監査済みの実績ではありません。ここを取り違えると、社内で数字の性格を説明できなくなります。

最後に、可能なら別の独立したソースで同じ数字を確認します。2つのソースで一致すれば、かなり安心して使えます。

Q5. 競合の売上や価格を毎日調べたいのですが、AIでできますか

価格やポイント倍率、レビュー件数のように、公開ページに載っている情報であれば継続的に取得できます。手順の章で挙げたような固定フォーマットのプロンプトで回すのが実務的です。

ただし売上は別です。競合の売上は公開されていないので、AIが出してくる場合は推定値か、どこかの記事に書いてあった数字です。推定値であること自体は問題ありませんが、推定の根拠と誤差の幅が示せないものは社内資料に載せないほうが安全です。

なお、各サービスの利用規約で自動取得が制限されている場合があります。取得を仕組みにする前に、対象サイトの規約を確認してください。

Q6. アンケートを合成データで置き換えられますか

現時点では、置き換えには向きません。

すでに存在する行動パターンを推定する用途ではある程度動きますが、それは既存の統計や調査を探せば済む話です。商品企画がいちばん知りたい「まだ世に出していない商品を、いくらなら買うか」のような問いは、学習データに答えがないため機能しません。欧州議会選挙の投票行動を予測させた研究では、予測投票率83%に対して実際は49%という結果が出ています。

仮説を作る段階で使うのは有効です。検証の段階では実際の人に聞いてください。

Q7. AI検索への対策は、いま優先してやるべきですか

自社の状況によります。

流入シェアで見ると、AI経由はまだ全訪問の0.2%から1%未満です。この規模のチャネルに、他の施策を止めてまで投資する理由は多くありません。

一方で、日本で検索行動に生成AIを使う人が37.0%まで来ていて、そのうち47.5%が実際にAIのおすすめから購入した経験があります。今後増える方向にあることは確かです。

現実的な進め方としては、大きな投資はせず、ページの構造を機械が読みやすい形に整えるところから始めるのがよいと考えられます。Adobeは、小売サイトの相当な部分が機械にとって読み取れないまま残っていると警告しています。まずはトップページ、サイト内検索の結果ページ、選び方ガイドのような入口と説明のページから確認してください。

この記事の数字をどこから取ったか

数字の出どころを開示しておきます。読者が自分で確認できるようにするためです。

市場規模は経済産業省「令和6年度 電子商取引に関する市場調査」(2025年8月26日公表)の公表資料報告書本体から取りました。カテゴリ別の内訳は報告書p.48の図表4-17と公表資料p.3の両方で一致することを確認しています。なお、この調査の公表値自体に1億円単位の丸め差があり、カテゴリ8項目の単純合計と公表合計が1億円ずれます。修正せず公表値のまま記載しています。

需要予測と発注サイクルの事例は、各社のプレスリリースおよび農林水産省・流通経済研究所の資料から取りました。ベンダーの導入事例ページに載っている効果数値は、導入企業の自己申告を含むため、本文では出典を明示したうえで断定を避けています。

チャネル別のデータ制約は、楽天市場とAmazonセラーセントラルの公式ヘルプおよび規約から取りました。解説記事ではなく一次のヘルプページを確認しています。Yahoo!ショッピングについては、公式ガイドラインの本文を確認できなかったため、本文では扱っていません。

AI検索まわりの数値は、伸び率だけでなく絶対シェアが分かるものを併記するようにしました。よく引用される「生成AI経由の流入が1,200%増」という数字は、前年同月比ではなく2024年7月と2025年2月を比べた7か月分の伸びです。Adobe自身も同じ記事のなかで、生成AI経由の流入は有料検索やメールなどの他チャネルと比べればまだ小さい(remains modest)と明記しています。倍率だけを取り出すと実態より大きく見えるため、分母が分かる数字と並べています。

出典として使う予定だったAdobeのレポートPDFのうち1本は、執筆時点で当方の環境から取得できなかったため採用を見送り、同社の公開ブログと、同レポートを報じた媒体の記事に差し替えています。開けない資料は、内容が正しそうでも根拠にしないという方針です。

出典の探索とクロスチェックには、複数の検索ソースを横断するリサーチAIを使いましたが、本文に載せた数値はすべて出典ページを開いて記述を確認しています。統計名については、廃止されていないかを官庁のページで個別に確認しました。この工程で、商業統計調査が2014年調査をもって廃止されていることが判明し、記述を修正しています。

引き算をして賞味期限で仕分けても、外部に投げる問いが月に何十件も出てくる規模になることがあります。多店舗展開していたり、扱うカテゴリが広かったりする場合です。汎用のチャットにその都度聞く形だと過去に調べたことが積み上がらず、同じことを3か月後にもう一度調べる、ということが起きます。そこで検討したいのが、調査結果を知識としてつないでいくタイプのリサーチAIです。Deskrexが開発しているSnorbeは、調べた内容をナレッジグラフ(調べた事柄どうしの関係を線でつないで保存する仕組み)として蓄積し、過去の調査と新しい問いを自動でつなぎます。EC・小売のように「同じ商材を何度も違う角度から調べ直す」仕事とは噛み合いがよく、リサーチの本数が増えてきたチームにとって新しい選択肢になります。

調査手法について

こちらの記事はグラフAIリサーチプラットフォームのSnorbeを使って作られています。Snorbeは研究開発・新規事業向けの調査テーマに応じた幅広い項目のオートリサーチや、ナレッジグラフの構築、構造化レポートの生成ができるAIリサーチツールです。

Screenshot

調査したいテーマを入力するだけで、AIが深堀りすべき観点や広げるべき調査項目をレコメンドしながら、自動でリサーチを進めます。収集した情報はナレッジグラフとして蓄積され、未調査領域(ホワイトスペース)を可視化しながら調査の網羅性を高めていけます。

また、観点マトリクスを30秒・構造化レポートを10分で自動生成する機能があり、出典付きのレポートをMarkdown/PDF形式でエクスポートできます。調査の元データも保存されるため、ファクトチェックや社内共有も容易です。

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また、グラフAIを活用した社内ナレッジ管理や、研究開発・新規事業のリサーチ支援、セルフホスト導入のご相談も受け付けています。お困りの方はお気軽にご連絡ください。

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