半導体業界の事業企画や投資・調査において、大手半導体・製造装置企業10社の直近通期R&D(研究開発)費用をどのように比較・評価すべきかは重要な課題です。
対象は半導体設計、製造、メモリ、製造装置を手掛ける上場企業10社です。本記事では、各社が公式に開示したR&D費用を比較します。
企業のR&D投資を正確に把握するためには、単純な金額の大小だけでなく、集計の前提条件に目を向ける必要があります。各社が報告する会計年度の終了時期や、半導体専業か全社的な事業を含むかといった事業範囲は同一ではありません。
また、全額を費用として計上するか、一部を資産として計上するかといったR&Dの会計定義にも違いがあります。さらに、報告通貨が異なる企業の数値を比較するため、本記事では公式の報告通貨額を明記します。
そのうえで2025年12月26日時点の米連邦準備制度理事会(FRB)H.10レートという単一の換算基準を用いた参考USD(米ドル)を併記します。そして、公式の報告通貨額と参考USDを明確に分けています。
表には各社の年度、事業範囲、会計上の定義、為替換算を添えています。順位の差が投資額そのものによるのか、集計条件によるのかを確かめながら読んでください。
半導体R&Dランキングの集計条件

半導体業界の研究開発(R&D)投資額を比較するにあたり、本記事では2026年9月22日時点で取得できる直近通期の公式開示データを使用しています。
対象企業は、半導体設計、製造、メモリ、製造装置を手掛ける大手上場企業から選定した以下の10社です。
- Samsung Electronics
- NVIDIA
- Intel
- Broadcom
- Qualcomm
- AMD
- TSMC
- SK hynix
- ASML
- Micron
なお、本ランキングは世界の全企業を網羅した順位ではなく、対象を上記の選定集合に絞って比較しています。推測値やアナリスト予想などは順位に含めていません。
集計の基準として、各社の連結会社全体で費用計上された研究開発費を採用しています。これは特定製品や半導体部門単体ではなく、会社全体としてどれだけの資金を研究開発に投じているかを見るためです。
企業ごとに事業の範囲や会計年度の終了日が異なるほか、開示に用いられる報告通貨も異なります。そのため、比較の際は公式の報告通貨額と、それを同じ基準日で換算した参考ドル額(参考USD)を明確に分けて整理しています。
半導体業界R&D投資TOP10

前述の集計条件に基づき、選定した大手半導体関連企業10社の直近通期のR&D費用をまとめた結果が以下の表です。
比較のため、各社の報告通貨を参考USD(米ドル)へ換算して金額順に並べています。換算には2025年12月26日時点の米連邦準備制度理事会(FRB)H.10の基準レートを用いました。順位は対象10社の参考ドル額で付けています。
事業範囲と会計年度は表の列で確認できます。
| 順位 | 会社 | 対象年度・終了日 | 公式R&D | 参考USD | 定義上の注意 |
|---|---|---|---|---|---|
| 1 | Samsung Electronics | FY2025・2025年12月期 | 37.7兆KRW | 261.59億USD | DX・DSを含む全社 |
| 2 | NVIDIA | FY2026・2026年1月25日 | 184.97億USD | 184.97億USD | 同社FY2026 |
| 3 | Intel | FY2025・2025年12月27日 | 138.00億USD | 138.00億USD | 全社R&D expense |
| 4 | Broadcom | FY2025・2025年11月2日 | 109.77億USD | 109.77億USD | インフラソフトウェアを含む全社 |
| 5 | Qualcomm | FY2025・2025年9月28日 | 90.42億USD | 90.42億USD | 全社R&D expense |
| 6 | AMD | FY2025・2025年12月27日 | 80.91億USD | 80.91億USD | 全社R&D expense |
| 7 | TSMC | FY2025・2025年12月31日 | 2,464.272億TWD | 78.43億USD | 全社R&D expenses |
| 8 | SK hynix | FY2025・2025年通期 | 6.7325兆KRW | 46.72億USD | 公式の総研究開発費 |
| 9 | ASML | FY2025・2025年12月31日 | 36.196億EUR | 42.59億USD | R&D costs。資産計上開発費を除く |
| 10 | Micron | FY2025・2025年8月28日 | 37.98億USD | 37.98億USD | 全社R&D expense |
※参考USDは、韓国ウォンを1,441.16、台湾ドルを31.42で除算して求めています。ユーロに対しては1.1766を乗算し、各参考USDを小数第2位で丸めた金額としています。計算および順位判定は丸める前の値を使用しています。USDで報告を行っている企業は換算していません。推測値は除外し、すべて公式開示に基づいた実績値のみを掲載しています。
AIで開示資料から比較表の初稿を作る

半導体業界を代表する10社のR&D規模を比較するには、各社が公開している年次報告書や決算資料を一社ずつ確認する必要があります。確認する項目は、R&Dの金額と単位、会計年度、費用と資産の区分、脚注の記述です。
資料ごとに表や脚注のレイアウトが異なるため、これらを一つひとつ手作業で転記して為替換算する工程には手間がかかります。この作業を効率化するため、公開一次資料からAIを用いて比較表の初稿を作成します。
実行前に、Gemini APIの認証案内に従ってGoogle Cloudプロジェクトに紐づく認証キーを用意します。そして、APIの課金状態をCloud Billingで確認します。
具体的には、各社のIRサイトやSEC、KRXから取得した公式の決算PDFやHTMLを、Gemini APIの文書理解機能へ渡します。このとき、抽出したい項目をJSON Schemaによる構造化出力として指定します。
これにより、対象項目が抽出された rd-extraction.json を生成します。抽出項目は会社名と年度終了日、報告通貨、R&D値、単位、連結範囲です。加えて、費用・資産区分と根拠ページ、引用も抽出されます。
各社で位置が異なる表記を同じ列へそろえつつ、転記候補と根拠ページを同時に残せる点が、手作業と比べた際のAIの利点です。
一方で、構造化された出力が得られても、生成された値や事実には不正確な出力が含まれる可能性があるため、厳密な評価が不可欠です。AIが引用の採否や法的定義を確定することはありません。
出力された rd-extraction.json をもとに、人は原資料の表や脚注と直接照合します。そして値や単位、会計年度、連結範囲、資産計上の有無を確認します。
その後、検証済みの値だけを利用し、同一基準日のH.10レートを用いた換算式と丸め前順位を再計算します。再計算には表計算ソフトやスクリプトを用い、最終的な rd-comparison.csv を作成します。
また、本業務ではデータ送信と権限の境界を厳密に管理します。AIへの入力は公開一次資料だけに限定し、社内の予測データや未発表研究、契約論文、有料アナリスト資料などを混ぜて送信してはいけません。
Gemini APIの追加利用規約において、無償サービスへ送信した内容は製品改善に利用される場合があるため、機密情報の取り扱いには注意が必要です。
さらに、PDFの読み込みのためにFiles API等へアップロードしたファイルはシステム側に保持される設定があります。そのため、処理の完了後に必ずファイルを削除する手順を組み込みます。
上位5社はSamsung・NVIDIA・Intel・Broadcom・Qualcomm

上位5社のR&D金額を比較する際は、対象となる「事業範囲」と「会計年度の名称・期間」の違いに注意して数字を読む必要があります。
まず事業範囲の点において、1位のSamsung Electronicsと4位のBroadcomは、半導体関連以外の事業を含む全社的な金額となっています。Samsungが公式に発表したFY2025のR&D費用は、37.7兆ウォン(参考:約261.59億ドル)です。
このR&D費用は半導体部門(DS)単体ではなく、DXとDSを含むSamsung Electronics全体の金額です。同様に、Broadcomの109.77億ドルも半導体ソリューションだけを含んでいるわけではありません。
この金額は、VMware買収後のインフラソフトウェア事業を含む会社全体のR&D費用を示しています。そのため、この金額のみを用いて半導体1個当たりの開発効率や技術力を直接比較することはできません。
次に会計年度の名称について、2位のNVIDIAのR&D費用184.97億ドルは「FY2026」の値として開示されています。これは未来の暦年2026年を通期で予測したものではなく、「2026年1月25日に終了する事業年度(FY2026)」の実績値であることに注意してください。
3位のIntel(138億ドル)と5位のQualcomm(90.42億ドル)も、特定の半導体製品ではなく会社全体のR&D費用を計上しています。
また、Intelの年度終了日は2025年12月27日、Qualcommは2025年9月28日と、企業ごとに年度の終了時期がずれています。対象となる期間が異なれば需要環境も為替の状況も異なるため、上位企業の数字であっても完全な同時点比較としては扱えないことを前提に解釈する必要があります。
6位から10位はAMD・TSMC・SK hynix・ASML・Micron

ランキング後半の6位から10位の企業を読む際には、米国以外の企業が含まれる点に注意します。そのため、「異なる通貨をどう換算したか」と「会計上のR&D定義をどう揃えたか」という2つのアプローチが重要になります。
6位のAMD(80.91億ドル)と10位のMicron(37.98億ドル)は米国企業です。これらの企業では、会社全体のR&D expense(費用)がそのまま米ドルで開示されています。一方、台湾や韓国、欧州の企業を比較するには為替換算が必要です。
本ランキングでは、公式に開示された現地通貨額を基準とし、すべて同日の為替レートで米ドル(参考USD)へ換算して順位を判定しました。7位のTSMCが開示した2,464.272億台湾ドルや、8位のSK hynixが公式開示した6兆7,325億ウォンがこれに該当します。
換算の基準日には、対象となる通貨が同じ表に掲載された2025年最後の営業日を用いています。それが12月26日の米連邦準備制度理事会H.10レート(31.42 TWD/USD、1,441.16 KRW/USD)です。
各社固有の決算日為替や年度平均レートとは異なる単一の基準を置いているため、企業の公式資料内に記載された参考換算値や二次記事の概算ドル額とは差が出ます。あくまで比較のための計算値として扱う必要があります。
また、9位のASML(36.196億ユーロ)については、会計定義の違いに注意が必要です。ASMLは全体の「R&D investments」として46億9,880万ユーロを開示しています。
その内訳は費用計上される「R&D costs(36億1,960万ユーロ)」と、資産計上される開発費に分かれています。資産計上分は「capitalized development expenditures(10億7,930万ユーロ)」です。
他社の損益計算書上のR&D expenseと条件を近づけるため、本ランキングでは資産計上開発費を意図的に分けました。そして費用として計上されたR&D costsのみを参考USD(約42.59億ドル、1.1766 USD/EUR換算)へ換算して順位に採用しました。
ASMLの費用計上分だけを使った理由を表の定義欄へ残しておけば、翌年の更新時にも同じ条件で計算できます。
R&D額だけで技術力や投資効率は決まらない
R&D額は、企業が研究や製品開発へ投入した会計上の規模を示すものであり、設計、製造、装置など事業モデルの異なる企業の投資余力を把握する入口となります。
しかし、ランキングの金額規模だけでは、研究成果や特許の質、実際の製品の競争力、あるいは投資効率を判定することはできません。企業によっては買収で連結範囲が変わっていたり、一部の開発費を資産計上していたりするため、金額だけの単純比較には限界があります。
したがって、R&D投資額を経営判断や事業企画へ接続するには、単一の数字ではなく複数の指標と合わせて読むことが重要です。具体的には、売上高に対するR&D比率、設備投資の規模、セグメント構成、主要製品の投入時期などと併せて解釈します。複数年にわたり売上高比率と絶対額の推移を追うことで、事業拡大や買収によって企業の注力する研究範囲が変化した時期も確認できます。
また、翌年以降にデータを更新して継続的な比較を行う際は、一貫した基準を保つ手順が求められます。前述の抽出手順を同じ項目と換算基準で再実行し、人は原資料の該当表と脚注、換算式、丸め前の順位を再確認します。
各社の新しい年次報告が公開されるのを待ち、同じ項目を再抽出します。そのうえで会計年度終了日や連結範囲、会計上のR&Dの定義、為替の基準日を更新して比較します。選定企業群の比較であることを前提とし、推測値やアナリスト予想は公式値が出るまでランキングへ追加しないことが、実務におけるデータ比較の精度を保つ基本となります。
よくある質問
Q1. 本ランキングは世界の全半導体企業を網羅した順位ですか?
いいえ、世界の全企業を網羅した順位ではありません。本記事のランキングは、代表的な大手上場企業10社を選定した比較用の集合です。これらの企業は半導体設計や製造、メモリ、製造装置を手掛けます。
対象はSamsung Electronics、NVIDIA、Intel、Broadcom、Qualcommなどです。ほかにAMD、TSMC、SK hynix、ASML、Micronが含まれます。また、アナリストの推測値などは除外し、公式開示に基づいた実績値のみを対象としています。
Q2. 比較されているデータは各社とも完全に同じ期間の数値ですか?
いいえ、企業の会計年度終了日はそれぞれ異なります。例えば、NVIDIAは2026年1月25日に終了するFY2026の数値を報告しています。一方、Micronは2025年8月終了のFY2025、Qualcommは2025年9月終了のFY2025の数値です。需要環境や為替が異なる期間を含んでおり、全社が同じ暦年の同時点比較ではないことに注意してください。
Q3. 記載されているR&D費用は、半導体製品単体の開発費ですか?
いいえ、本記事では特定製品や半導体部門単体ではなく、各社の会社全体(連結範囲)で費用計上された研究開発費を集計の基本としています。
たとえば、Samsung Electronicsの37.7兆ウォンは半導体部門(DS)だけでなくDX部門を含む全社分です。また、Broadcomの109.77億ドルはインフラソフトウェア事業を含んでいます。そのため、これらの金額から半導体1個当たりの開発効率を直接比較することはできません。
Q4. 現地通貨から米ドル(参考USD)への換算には、どのような為替レートを使っていますか?
すべての企業を単一の基準で比較するため、2025年12月26日の米連邦準備制度理事会(FRB)H.10のレートを採用しています。レートは韓国ウォンが1,441.16、台湾ドルが31.42、ユーロが1.1766です。
各社固有の決算日為替や年度平均レートは用いておらず、ドル額はあくまで順位比較のための計算値です。為替が動けば参考USDと順位が変わる可能性があります。
Q5. ASMLのR&D費用が公式発表の総額と異なるのはなぜですか?
他社との会計上の比較条件をそろえるためです。ASMLは全体のR&D investmentsを46億9,880万ユーロと開示していますが、この中には資産として計上される開発費が含まれています。
本ランキングでは、他社の損益計算書上のR&D expense(費用)へ条件を近づけました。そのため、費用計上されたR&D costs(36億1,960万ユーロ)のみを採用し、参考USDへ換算しています。
Q6. このR&D金額の順位から、企業の技術力や投資効率を判定できますか?
金額だけでは研究成果、特許の質、実際の製品の競争力、あるいは投資効率を判定することはできません。R&D額はあくまで企業が研究・製品開発へ投入した会計上の規模を示すものです。
さらに企業によっては買収で連結範囲が変わっていることもあります。そのため評価の際は、売上高に対するR&D比率、設備投資の規模、セグメント構成、主要製品の投入時期など複数の指標と合わせて読む必要があります。
調査手法について
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