熱狂の裏でVCが問う「どう稼ぐのか?」 AIエージェント収益化の現在地

どうやら、AIエージェントの世界に、凄まじい勢いでお金が流れ込んでいるようです。2023年から2025年にかけて、ベンチャーキャピタル(VC)からの資金流入は明らかに加速しています。例えば、ProsusとDealroomの報告によれば、自律的にタスクを実行する「Agentic AI」スタートアップへのVC投資は、2025年前半だけで28億ドルに達したとされています。もはや単なる実験的な技術ではなく、事業の核として大きな期待が寄せられていることがわかります。
この熱狂の背景には、企業の高い導入意欲があります。多くの調査がその熱気を示しており、あるレポートではエンタープライズの85%が、別のレポートでは世界の企業の82%がAIを利用または検討していると報告されています。これは、AIエージェントがワークフローの自動化や顧客接点の改善といった具体的な業務インパクトをもたらすという期待に裏付けられているからでしょう。
しかし、この熱狂の裏側で、企業のお財布を握る人々は、もっと冷静な視線を向けている気がします。AIエージェントがもたらす投資対効果(ROI)については、まだ手探りの状態が続いているのです。ある調査では、CFO(最高財務責任者)の65%が不十分なROIをAI導入の障壁として挙げており、「非常にポジティブなROI」を報告している企業はわずか13%にとどまるという現実があります。
この「期待」と「現実」のギャップを、投資家たちはどう見ているのでしょうか。どうやら彼らの視点も、少しずつ変化しているようです。かつては「技術の先進性」や壮大なビジョンが投資判断の中心でしたが、今はもっと地に足のついた問いが投げかけられています。それは、「その技術で、どうやって稼ぐのか?」という問いです。
具体的には、投資判断の重心が「再現性のあるアウトカム」と「ユニットエコノミクス」へと移行しているように見えます。再現性のあるアウトカムとは、顧客が「この成果のためならお金を払う」と納得する、繰り返し提供可能な価値のことです。そしてユニットエコノミクスとは、顧客一人あたり、あるいはサービス一回あたりで利益が出る構造になっているか、という事業の経済合理性を指します。VCは今、AIエージェントの推論コストといった特有の費用まで含めて、この単位あたりの経済性を厳しく評価し始めているのです。
技術が優れているだけでは、もはや十分ではない。この厳しい現実は、AIエージェントで事業を立ち上げようとする人々にとって、避けては通れない課題を突きつけています。それは、「ビジネスモデルをいかに設計するか」という根源的な問題です。
では、どうすればAIエージェントは持続的に価値を生み出し、投資家が納得するような収益を上げることができるのでしょうか。この記事では、この問いに答えるべく、VCの視点からAIエージェントの収益モデルを解剖し、これからの事業者が進むべき道を照らしていきます。

「成果報酬」から「SaaS」まで VCを惹きつける4つの収益モデル徹底解剖

前のセクションでは、「どうやって稼ぐのか?」という問いが、AIエージェントを取り巻く熱狂の裏で、投資家たちから静かに、しかし鋭く投げかけられている現状を見ました。技術の可能性だけでは不十分で、「再現性のあるアウトカム」と健全な「ユニットエコノミクス」が求められている。では、この問いに答えるための具体的な選択肢には、どのようなものがあるのでしょうか。
どうやら、AIエージェントのビジネスモデルは混沌としているように見えて、実はいくつかの型に分類できそうな気がしてきました。私が事業の特性を整理する上でしっくりくるのは、「解決の測定容易性」と「統合の深さ」という2つの軸です。
「解決の測定容易性」とは、AIエージェントが実行したタスクの成果を、誰の目にも明らかな数値や状態で測れるかどうか、ということです。一方で「統合の深さ」は、エージェントが企業の既存システムや特定の業務プロセスにどれだけ深く入り込む必要があるかを示します。この2つの軸で考えると、VCを惹きつける主要な4つの収益モデルが見えてくるのではないでしょうか。
アウトカムベースモデル:価値提供と支払いを一致させる
まず1つ目は、「解決の測定容易性が高く、統合の深さが比較的浅い」領域で特に力を発揮する、成果報酬(アウトカムベース)モデルです。これは、AIエージェントが具体的な成果を出した場合にのみ料金が発生するという、非常に分かりやすいモデルです。
このモデルの代表格が、顧客体験を自動化するエージェントを提供するSierraです。彼らは「Resolution-Based Pricing(解決ベースの価格設定)」を掲げ、顧客の問題が人間のオペレーターを介さずに解決された場合にのみ課金するという、ある種ラディカルなアプローチを取っています。
VCの視点から見ると、このモデルは顧客と事業者のインセンティブが完全に一致するため、初期の顧客獲得において強い説得力を持ちます。顧客は成果が出なければ支払う必要がないため、導入のリスクを低く感じられるからです。しかし、投資家は同時に「成果とは何か」という定義の曖昧さに潜むリスクも見抜いています。成果の定義、測定方法、あるいは人間に引き継がれた場合の課金ルールなどが契約上明確でなければ、請求トラブルや収益の不安定化につながりかねません。そのため、VCはSierraの事例のように、成功率や返金ルールといった実務的な運用体制が整っているかを厳しく評価することになります。
B2B SaaS / APIモデル:予測可能な収益基盤を築く
次に、「解決の測定は難しいが、統合は比較的浅い」タスクで有効なのが、B2B SaaSやAPI利用料モデルです。これは、月額や年額の固定料金(サブスクリプション)や、APIのコール数に応じた従量課金で収益を上げる、ソフトウェア業界ではおなじみのモデルです。
例えば、AIソフトウェアエンジニアとして注目を集めるCognition社の「Devin」は、この領域の好例と言えるかもしれません。ソフトウェア開発のように、成果を単純な指標で測るのが難しいタスクに対して、開発者一人あたりの生産性を向上させるツールとして提供されます。Cognition社は、このモデルで驚異的な成長を見せており、ARR(年間経常収益)がわずか9ヶ月で約100万ドルから7,300万ドルへ急増したと報告されています。
VCにとって、このモデルは予測可能な定常収益を生み出すため、事業価値を算定しやすく、投資判断がしやすいという魅力があります。しかし、AIエージェント特有の課題として、推論コストが収益性を圧迫しないかという点が最大の懸念事項となります。VCは、LTV/CAC(顧客生涯価値と顧客獲得コストの比率)といった従来のSaaS指標に加え、リクエストあたりの推論コストといったAI固有のユニットエコノミクスが健全であるかを、より一層厳しく見極めようとするでしょう。
垂直特化モデル:深い専門知識で「堀」を築く
3つ目は、「解決の測定は比較的容易で、統合も深い」領域、すなわち垂直特化(バーティカル)モデルです。これは、医療、金融、法務といった特定の業界に特化し、その業界固有の複雑なワークフローに深く統合されることで価値を提供します。
例えば、金融機関向けの不正検知エージェントや、医療機関向けの診断支援エージェントなどがこれにあたります。これらの領域では、業界の規制や専門知識そのものが強力な参入障壁となり、一度導入されれば簡単には代替されません。
VCは、このモデルが高い顧客単価(ARPU)と低い解約率を実現し、強力な「堀」(競争優位性)を築ける可能性に賭けます。ただし、その裏返しとして、規制対応やドメイン知識の習得に多大なコストと時間がかかること、そして顧客ごとのカスタマイズ負荷が高く、スケールしにくいというリスクも認識しています。したがって、投資判断においては、その領域におけるチームの専門性と、導入実績が極めて重要視されることになります。
プラットフォームモデル:エコシステムの中核を狙う
最後に紹介するのが、「解決の測定が難しく、統合も深い」領域で展開されるプラットフォームモデルです。これは、単一のタスクを解決するのではなく、様々なソフトウェアやAPIと連携し、企業全体の複雑なワークフローを自動化するための基盤そのものを提供します。
Google出身のチームが設立したAdeptは、まさにこの領域を目指すプレイヤーの一社です。彼らは、自然言語の指示で既存のあらゆるソフトウェアを操作できるAIチームメイトを構築することをビジョンに掲げており、深いシステム統合を志向しています。
VCの視点では、このモデルは成功すれば市場を独占するプラットフォーマーとなり、エコシステム全体から収益を得られるという大きな夢を描くことができます。しかし、その実現には膨大な技術開発と、多くの企業との連携が必要であり、収益化までの道のりが非常に長くなるという大きなリスクを伴います。そのため、この領域への投資は、長期的な視点と巨額の資本を持つ、ごく一部のVCに限られる傾向があるように思います。
これらの4つのモデルは、それぞれに異なる魅力とリスクを抱えています。重要なのは、自社のAIエージェントがどの領域で最も価値を発揮できるのかを見極め、それに最適な収益モデルを選択することです。そして、どのモデルを選ぶにせよ、投資家が最終的に見ているのは、その事業が持続可能な経済性を確立できるかどうかに尽きます。
次のセクションでは、これらのモデルを実際に採用し、市場を切り拓いている先進企業の事例をさらに深く掘り下げ、彼らがどのようにして価値提供と価格設定を一致させようとしているのか、その戦略に迫っていきます。

Sierraの「解決課金」、Devinの「高速ARR」に学ぶ、勝ち筋の見つけ方

前のセクションでは、AIエージェントのビジネスモデルを4つの型に分類し、それぞれの特徴を概観しました。しかし、理論はあくまで地図のようなもの。実際に未開の地を切り拓いている先駆者たちは、どのようにコンパスを合わせ、どこに勝ち筋を見出しているのでしょうか。
どうやら、成功している企業は、自社の提供価値と価格設定を一致させるために、実に巧みな戦略を編み出しているようです。ここでは、特に注目すべき3社の事例を深掘りし、彼らのアプローチから私たちが学べることは何かを探っていきたいと思います。
Sierraの「解決課金」:価値と支払いを完全に一致させる戦略
アウトカムベースモデルの代表格として紹介したSierraは、その価格設定において、ある種ラディカルとも言えるアプローチを採用しています。それが「Resolution-Based Pricing(解決ベースの価格設定)」です。これは、顧客からの問い合わせが人間のオペレーターを介さずにAIエージェントだけで解決された場合にのみ、料金が発生するという仕組みです。
このモデルの強力な点は、顧客とSierraのインセンティブを完全に一致させているところにあります。顧客にとっては、成果が出なければ支払う必要がないため、導入への心理的・財務的なハードルが劇的に下がります。一方でSierraにとっては、エージェントの解決率を高めれば高めるほど直接収益に繋がるため、常にプロダクトを改善し続ける強い動機が生まれるのです。これは、従来のソフトウェア業界が抱えていた「シェルフウェア(契約したものの使われないソフトウェア)」問題を根本から解決するアプローチではないでしょうか。
もちろん、このモデルは「成果の定義」という難しい問題を伴います。しかしSierraは、その点についても周到です。成果の基準は事前に顧客と明確に合意し、請求の透明性を確保します。さらに、AIが解決できず人間に引き継がれた(エスカレーションされた)ケースでは、原則として料金は発生しないとしています。もし成果報酬が馴染まない場合は、会話数に応じた課金などを組み合わせた「ブレンド型課金」を提案するなど、柔軟な姿勢も見せています。
わずか18ヶ月で100億ドルもの評価額を達成したとされるSierraの急成長は、この「価値と支払いを一致させる」という明快な戦略が、いかに市場に強く受け入れられているかを物語っているように思います。
Cognition (Devin)の「高速ARR」:予測可能性という名の信頼
AIソフトウェアエンジニア「Devin」で世界を驚かせたCognitionは、B2B SaaSモデルがいかに爆発的な成長を生み出すかを示す好例です。同社のARR(年間経常収益)は、2024年9月の約100万ドルから、わずか9ヶ月後の2025年6月には7,300万ドルへと急増したと報告されており、その成長スピードは驚異的です。
この急成長を支えているのが、予測可能性の高いSaaSモデルです。月額や年額の固定料金は、投資家にとって事業価値を算定しやすく、将来の収益を予測できるため、非常に魅力的に映ります。特にソフトウェア開発のように、成果を「解決件数」のような単純な指標で測りにくい領域では、開発者の生産性向上という価値に対して定額を支払うモデルが、顧客にとっても受け入れやすいのかもしれません。
しかし、投資家はこの輝かしい成長率の裏側も冷静に見ています。例えば、この急成長が一部の大口顧客によって支えられている場合、その顧客が離脱すれば収益が一気に不安定化する「顧客集中リスク」を抱えることになります。VCがCognitionのような企業を評価する際は、ARRの成長率だけでなく、顧客基盤の多様性やチャーン率(解約率)、NRR(売上継続率)といった、収益の質と継続性を測る指標にも厳しい目を向けているはずです。
Character.AIの「二段構え」:巨大なコストを乗りこなす現実解
消費者向けAIサービスは、多くのユーザーを惹きつける一方で、常に「どうやって稼ぐのか?」という問い、特に膨大な推論コストをどう賄うのかという重い課題に直面します。この難問に対する一つの現実的な答えを示しているのが、AIキャラクターとの対話プラットフォームを提供するCharacter.AIです。
彼らの収益戦略は、見事な「二段構え」になっています。
第一のエンジンは、月額9.99ドルのサブスクリプションサービス「c.ai+」です。これにより、2024年には年間約3,220万ドルの収益を上げるなど、コアなユーザー層からの安定した収益基盤を築いています。
しかし、それだけでは巨大なサーバーコストを賄うのは容易ではありません。そこで機能するのが第二のエンジン、すなわちGoogleとの戦略的提携です。2024年、Character.AIは自社のLLM(大規模言語モデル)技術をGoogleに非独占的にライセンス供与する契約を結びました。これは、単なる技術提携にとどまらず、初期の投資家が持つ株式をGoogleが買い取るという、いわば「リバースアクィハイヤー」とも呼ばれる異例の取引でした。この背景には、創業者たちがモデル開発と運用のための巨額の資金調達に疲弊していた「資金調達疲れ」があったと言われています。
この戦略により、Character.AIはプロダクトの独立性を保ちながら、短期的な収益のプレッシャーを和らげ、事業を継続するための「息継ぎ」の時間と資金を得ることができました。消費者向けサービスが、B2Bライセンスという形で収益源を確保するというこのアプローチは、多くのスタートアップにとって重要な示唆を与えるのではないでしょうか。
Sierra、Cognition、Character.AI。彼らの戦略は三者三様ですが、共通しているのは、自社の提供価値と市場の特性を深く理解し、それに最適化された収益モデルを構築している点です。それは、価値を直接価格に結びつけることであったり、予測可能な収益構造を築くことであったり、あるいは複数の収益パスを確保することであったりします。
これらの戦略の根底にあるのは、結局のところ「ユニットエコノミクス」、つまり事業の経済性が健全であるかという問いです。では、投資家は具体的にどのような数値(KPI)を見て、その健全性を判断しているのでしょうか。次のセクションでは、資金調達を勝ち抜くために不可欠な、ユニットエコノミクスの具体的な指標について、さらに詳しく見ていきたいと思います。

資金調達を勝ち抜く「ユニットエコノミクス」の教科書:投資家が見るKPIと実践チェックリスト

これまでのセクションで、AIエージェント市場の熱狂、多様なビジネスモデル、そして先進企業の戦略を見てきました。しかし、どれだけ革新的な技術や戦略を描いても、ベンチャーキャピタル(VC)との対話のテーブルで最終的に問われるのは、極めてシンプルかつ本質的な問いです。「その事業は、単位あたりで儲かるのか?」と。
どうやら、投資家はAIエージェントの「魔法」を信じつつも、その魔法にかかる「コスト」を誰よりも冷静に計算しているようです。技術の先進性だけで資金が動いた時代は終わり、再現性のある顧客価値と、推論コストを含むユニットエコノミクスを証明できるかどうかが、資金調達の成否を分ける決定的な要因になってきたと感じています。
この最終セクションでは、VCがデューデリジェンス(投資精査)で特に重視する定量的なKPIを解き明かし、創業者のみなさんが自社の事業価値を力強く語るための実践的なチェックリストを提供します。
VCが問う「2つの収益性」:顧客単位と実行単位
VCがAIエージェントの事業計画書をめくる時、彼らの頭の中では2種類の電卓が同時に動いている、と私は考えています。一つは従来のSaaSビジネスでも使われてきた「顧客単位の収益性」を測る電卓。もう一つはAIエージェント特有の「実行単位の収益性」を測る電卓です。
顧客単位の収益性:事業の持続可能性を見る指標
これは、顧客一人ひとりから、長期的にどれだけの利益を得られるかを見るための指標群です。
- LTV/CAC(顧客生涯価値 / 顧客獲得コスト): これは事業の健全性を示す最も基本的な比率です。顧客一人を獲得するためにかかった費用(CAC)に対して、その顧客が将来にわたってどれだけの価値(LTV)をもたらしてくれるかを示します。この比率が高ければ高いほど、効率的に成長できる事業だと評価されます。
- CAC回収期間(CAC Payback Period): 顧客獲得に投じたコストを、何か月で回収できるかを示す指標です。この期間が短いほど、事業のキャッシュフローは健全になります。
- NRR(売上継続率): 既存顧客からの売上が、前年比でどれだけ成長したかを示す指標です。解約による売上減を、アップセルやクロスセルによる売上増が上回ればNRRは100%を超え、VCからは「顧客が価値を感じ、もっとお金を払ってくれている」証拠として高く評価されます。
これらの指標は、あなたのAIエージェントが単なる目新しいツールではなく、顧客にとって不可欠な存在となり、持続的な収益を生み出す力があることを証明するために不可欠です。
実行単位の収益性:スケールの罠に嵌らないための指標
AIエージェントビジネスの最大のリスクは、売上が伸びるほどにコストも膨れ上がり、利益が出ない「スケールの罠」に陥ることです。特に、LLMのAPIコールなどに伴う推論コストは、事業の粗利率を直接圧迫します。
- 推論コスト(Inference Cost): エージェントがタスクを1回実行する(あるいは1リクエストを処理する)ために、いくらのコストがかかっているかを示す、AIビジネスの生命線とも言えるKPIです。VCは、このコストを正確に把握し、将来的にどう削減していくかの計画を厳しく問います。
- 粗利率(Gross Margin): 売上から、推論コストなどの売上原価を差し引いた利益の割合です。この数値が低いと、どれだけ顧客を増やしても、マーケティングや開発に投資する原資が生まれません。
AIエージェントは、従来のソフトウェアのように一度作ればコピーコストがほぼゼロ、というわけにはいきません。だからこそ、実行単位での収益性を証明することが、VCを安心させる鍵となるのです。
ピッチで説得力を持つための3つの証明
では、これらのKPIを踏まえた上で、資金調達のピッチにおいて具体的に何を語るべきなのでしょうか。私は、VCを説得するためには、少なくとも以下の3つの点を具体的な数値で証明する必要があると考えています。
証明1:PoCから有料への転換実績
「あなたのエージェントは素晴らしい技術ですが、本当に顧客はお金を払ってくれるのですか?」これは、投資家が抱く最も根源的な問いです。この問いに答える最強の武器が、PoC(概念実証)から有料契約への転換率です。
高い転換率は、あなたのエージェントが単なる「お試し」で終わるものではなく、顧客の課題を解決し、明確なビジネス価値を提供していることの動かぬ証拠となります。初期の顧客数人との有償パイロットプログラムでも構いません。その実績は、何枚ものスライドで市場規模を語るよりも雄弁に、あなたの事業の可能性を物語ってくれるはずです。
証明2:推論コストの管理と改善ロードマップ
次にVCが懸念するのは、前述した「スケールの罠」です。「今は良くても、ユーザーが増えたらコスト倒れになるのでは?」という疑問に対し、あなたは推論コストの現状と、それを将来どのように改善していくかの具体的なロードマップを提示しなければなりません。
例えば、以下のような計画を数値で示すことができれば、VCの信頼を得やすくなるでしょう。
- モデルの軽量化: 特定のタスクに特化した小型モデル(SLM)を開発・採用し、汎用モデルよりもコストを抑える計画。
- キャッシュ戦略: よくあるリクエストに対しては、結果をキャッシュしておくことでAPIコール数を削減する仕組み。
- ハードウェアの最適化: 将来的に、特定の推論処理に最適化されたハードウェアを利用する計画など。
コスト構造を深く理解し、それを改善する意志と能力があることを示すことが、長期的な収益性への信頼に繋がります。
証明3:独自データという「堀」の存在
最後に、あなたの事業が簡単に模倣されない理由、すなわち「堀(Moat)」の存在を説明する必要があります。AIエージェントビジネスにおいて、最も強力な堀の一つとなり得るのが独自データです。
VCは、あなたがどのようにして他社がアクセスできないデータを獲得し、それを活用してエージェントの性能を高め、顧客をロックインしていくのかというストーリーに耳を傾けます。初期の顧客との契約において、サービスの改善目的でデータを(匿名化して)利用する権利を確保しているか、といった点も重要なチェックポイントになります。このデータのループが回り始めれば、それは競合に対する強力な参入障壁となるでしょう。
明日から始める実践チェックリスト
ここまで、VCの視点と重要KPIについて解説してきました。最後に、創業者のみなさんが自社の事業を客観的に評価し、次のアクションプランを立てるための実践的なチェックリストを共有します。
顧客価値と収益性
- [ ☑️ ] 顧客は、あなたのエージェントによってどんな「アウトカム(成果)」を得ていますか?(例:コスト削減額、時間短縮率、売上向上率など)
- [ ☑️ ] PoCから有料契約への転換率は何%ですか?
- [ ☑️ ] LTV/CAC比率は3倍以上になっていますか?
- [ ☑️ ] CAC回収期間は12ヶ月以内ですか?
- [ ☑️ ] NRRは100%を超えていますか?
コスト構造と効率性
- [ ☑️ ] 1リクエストあたりの推論コストはいくらですか?
- [ ☑️ ] 粗利率は何%ですか?
- [ ☑️ ] 推論コストを今後6ヶ月で何%削減する計画がありますか?その具体的な方法は?
事業の防御力と成長性
- [ ☑️ ] 競合他社がアクセスできない独自のデータ獲得戦略はありますか?
- [ ☑️ ] データ利用に関する権利は、顧客との契約で確保されていますか?
- [ ☑️ ] ARRの成長率は、投資家が期待する水準(例えばシードからシリーズAまで6〜9ヶ月といった急成長)を描けていますか?
- [ ☑️ ] 上位3社の顧客がARR全体に占める割合はどのくらいですか?(顧客集中リスクの評価)
AIエージェントという新しい波は、間違いなく私たちの働き方やビジネスのあり方を根底から変える可能性を秘めています。しかし、その大きな可能性を現実に変え、持続可能な事業として成長させていくためには、技術的なビジョンだけでなく、緻密な事業設計と冷静な計器飛行が不可欠です。
この記事が、AIエージェントという広大な海へ漕ぎ出す起業家のみなさんにとって、自社の現在地を確認し、目指すべき航路を定めるための一助となれば、これほど嬉しいことはありません。
さて、あなたの事業のユニットエコノミクスは、どのような物語を語っているでしょうか?

調査手法について
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市場調査やデスクリサーチの生成AIエージェントを作っています 仲間探し中 / Founder of AI Desk Research Agent @deskrex , https://deskrex.ai
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