先行技術調査にかかる時間は?工程別データとAI活用の限界

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先行技術調査にかかる時間は?工程別データとAI活用の限界

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新規事業の立ち上げや研究開発において、他社の特許を調べる先行技術調査は欠かせない業務です。しかし、この調査にかかる時間は、発明の内容を理解し、検索式を作り、特許の分類を特定し、論文などの非特許文献を読み、請求項と自社技術を対比するといった工程のどこで発生するのでしょうか。また、急速に進化するAIは、これらの作業のどこを支援できるのでしょうか。

調査時間の目安として、特許庁などの公的なデータが参照されることがあります。たとえば、メキシコ産業財産庁(IMPI)の審査官による先行技術検索と実体審査の作業時間は平均16〜30時間と報告されています。また、欧州特許庁(EPO)における標準検索の平均処理期間は5.1か月とされています。しかし、前者は審査工程を含んだ時間であり、後者は実際の作業時間ではなくカレンダー上の処理期間です。そのため、これらの数字を民間企業の調査にかかる時間へそのまま当てはめることはできません。

本記事では、こうした数字の正しい読み解き方を踏まえ、調査の目的や技術の難しさから必要な作業時間(人時)を見積もる方法を解説します。そのうえで、AI検索を文献の候補抽出として活用しつつ、最終的な判断を弁理士や担当者へ残すという、安全で現実的な業務設計の道筋を示します。

先行技術調査の時間は目的で変わる

先行技術調査の時間は目的で変わるについて、確定情報、AIの候補、人が確認する境界を一つの焦点で示し、縮小表示でも構造を判別できる。

先行技術調査にかかる時間を正確に見積もるためには、まず調査の目的を明確にする必要があります。ひとくちに先行技術調査といっても、目的によって対象とする文献の範囲や読み込みの深さが大きく異なるため、すべての調査をひとまとめにした単一の平均時間を使うことはできません。

調査の目的は、大きく分けて以下の4つに分類して区別します。

  • 出願前調査 これから自社が出願しようとする発明が、すでに世の中に存在していないか(新規性)、簡単には思いつかないか(進歩性)を確認します。自社の発明に焦点を絞って関連文献を探します。
  • 無効資料調査 他社が持っている特許の効力を失わせるために、審査段階で見落とされていた過去の文献を探し出します。特定の請求項(権利の範囲)をピンポイントで無効にする証拠を見つけるため、非常に高い精度と深い文献の読み込みが求められます。
  • FTO(侵害予防調査) 自社の新しい製品やサービスが、他社の持っている特許権を侵害していないかを確認します。有効な権利が残っている国や地域を対象とし、他社の特許の請求項と自社の事業内容を一つひとつ対比する作業が発生します。
  • 特許ランドスケープ(技術動向調査) 特定の技術分野全体がどのように発展しているか、競合他社がどのような特許を出願しているかを俯瞰します。数千から数万件という大量のデータを集めて分類し、全体の傾向を分析します。

出願前なら自社発明に近い文献、無効資料なら相手の請求項を崩す文献、FTOなら有効な権利、ランドスケープなら技術分野全体が対象です。見積書には調査目的と対象範囲を先に書きます。

公的資料には16〜30時間という審査例がある

公的資料には16〜30時間という審査例があるについて、確定情報、AIの候補、人が確認する境界を一つの焦点で示し、縮小表示でも構造を判別できる。

先行技術調査にどれくらいの時間がかかるかを見積もる際、特許庁などの公的な機関が公表しているデータが参考にされることがあります。たとえば公的資料の中には、1件の特許出願に対して、IMPI(メキシコ産業財産庁)の審査官が検索と実体審査を行う平均時間が16〜30時間であるという審査例が示されているものがあります。

しかし、このIMPI審査官の検索・実体審査平均を、民間企業が行う先行技術調査の作業時間としてそのまま転用してはいけません。

なぜなら、公的な審査機関と民間企業では、調査を行う背景や工程の定義が異なるからです。特許庁の審査官は、新しく出願された発明に特許を認めてよいかを判断するために、あらかじめ決められた手順に沿って検索と審査を進めます。一方で、民間企業が事業活動の一環として行う調査は、自社の新製品が他社の権利を侵害しないかを慎重に確認したり、他社の特許を無効にするための強力な証拠を探したりと、事業上のリスクに応じて範囲を広げ、深く読み込む必要があります。

そのため、公的資料に記載された16〜30時間という時間は、あくまで審査官が特定の枠組みのなかで行う工程の平均的な実作業時間として捉えるべきです。この数字を無条件に自社の見積もりに当てはめると、必要な作業時間を短く見積もりすぎてしまい、実態と合わなくなるおそれがあります。

検索期間と担当者の実作業時間は別である

検索期間と担当者の実作業時間は別であるについて、確定情報、AIの候補、人が確認する境界を一つの焦点で示し、縮小表示でも構造を判別できる。

先行技術調査にかかる時間を見積もる際には、統計データに示された「期間」と、実際に手を動かす「実作業時間(人時)」を混同しないよう注意する必要があります。

たとえば、欧州特許庁(EPO)のデータで言及される平均5.1か月という数字は、あくまで調査の手続きを終えるまでの「処理期間(リードタイム)」を示しています。この数か月にわたる期間のなかには、順番待ちの時間や、審査官などの担当者が別の案件を処理している時間も含まれています。

そのため、EPOの平均5.1か月という数字を、1件の検索に対して担当者がつきっきりで作業する「検索人時」としてそのまま見積もりに使うことはできません。特許の審査プロセスでは、追加の関連文献を見つけるトップアップサーチ(top-up search)などの検索手順が規定されており、こうした複雑な工程を実行するための実作業時間は、全体の処理期間の中の一部にすぎません。

組織の中で調査業務が完了するまでの「検索期間」と、担当者が実際に文献を探して読み込む「実作業時間」は別であると理解し、調査を依頼する際はそれぞれを分けてスケジュールを組む必要があります。

AIは分類、検索候補、文書読解を支援する

AIは分類、検索候補、文書読解を支援するについて、確定情報、AIの候補、人が確認する境界を一つの焦点で示し、縮小表示でも構造を判別できる。

先行技術調査において、AI(人工知能)はすべての作業を自動で行うわけではありません。AIが得意とするのは、膨大な特許文献を分類することや、目的の技術に近そうな検索候補を見つけ出すこと、そして文書の読解を助けることです。

たとえば欧州特許庁(EPO)では、案件の適切な配分や特許の分類、関連する先行技術を特定する作業をAIが支援しており、この仕組みは審査官の検索工程の一部として組み込まれています。事前検索(PreSearch)の段階でAIが関連資料の候補を素早く洗い出すことで、人が一つひとつ探す手間を減らしています。

さらに、EPOが開発した次世代検索ツールであるANSERAは、40を超える国の特許庁に導入され、2500人以上の審査官によって利用されています。また特許文献だけでなく、15の標準化団体から集められた550万を超える文書を13の専用データベースへ統合することで、特許以外の技術文書(非特許文献)を検索・読解しやすくする支援も行われています。

EPOのPreSearchは候補文献を絞り、審査官が請求項との対応を読みます。企業の調査でも、AIが挙げた候補を請求項要素ごとに並べ、担当者が該当箇所を読めば検索と対比を分担できます。

完全性は検索時間だけでは保証できない

完全性は検索時間だけでは保証できないについて、確定情報、AIの候補、人が確認する境界を一つの焦点で示し、縮小表示でも構造を判別できる。

先行技術調査を行う際、「時間を長くかければかけるほど、世の中にあるすべての関連文献を確実に見つけ出せる」と考えられがちです。しかし実際には、検索にかける時間だけで調査の完全性を保証することはできません。

世界知的所有権機関(WIPO)の会議資料でも、先行技術を探す際には、特許文献に対する分類の不完全さと費用制約から100%の完全性を常に得られるとは限らないと説明されています。つまり、いくら実作業時間を費やしても、データベースの仕組みの限界や予算の上限によって、どうしても見落としが発生する可能性は残るのです。

調査ログには、検索時間とともに次の探索範囲を残します。

  • 分類の不完全さ:特許に付与される技術の分類記号が必ずしも完璧ではなく、探している技術が想定外の分類に紛れ込んでいる可能性があります。
  • 言語と同義語:国や出願する企業によって使う言葉が異なったり、同じ技術であってもまったく違う単語(同義語)で表現されたりするため、特定の検索キーワードだけに頼ると見落としが生まれます。
  • 非特許文献:学術論文や業界向けの雑誌など、特許庁のデータベース以外の場所に重要な技術情報が発表されていることも少なくありません。
  • 公開時期:特許は出願されてから一定期間が経過するまで世の中に公開されないため、調査した時点ではどうやっても見つけられない「未公開の文献」が存在します。

WIPOが提供するガイドラインにも、特許情報の検索範囲、書誌情報、ファミリー、法的状態を扱う基礎資料として、調査時に気を配るべき多様な要素が示されています。これらを参考に、分類の不完全さ、言語や同義語の揺らぎ、非特許文献の存在、そして公開時期のずれといった項目を一つひとつ監査する工程を組み込むことが、より信頼性の高い先行技術調査につながります。

請求項要素ごとに調査ログを残す

請求項要素ごとに調査ログを残すについて、確定情報、AIの候補、人が確認する境界を一つの焦点で示し、縮小表示でも構造を判別できる。

先行技術調査では、ただ文献を探すだけでなく、調査の過程をしっかりと記録に残すことが大切です。調査をどこで終わらせるかという判断は非常に難しいため、記録がないと、担当者がどのような手順でどこまで調べたのか、別の人が後から確認できなくなってしまいます。

調査をいつ終えるべきかについて、欧州特許庁(EPO)の学習用資料では、関連文献をさらに発見する確率と追加労力を比較して検索終了を判断すると説明されています。つまり、「これ以上労力や時間をかけて探しても、新しい関連文献が見つかる可能性は低い」と見極めたタイミングで検索を完了させるということです。この判断を誰の目にもわかる形で客観的に行うためにも、作業の証拠となるログ(記録)を残すことが不可欠です。

具体的には、探したい発明や特許の内容を細かいパーツに分ける作業を行い、請求項要素ごとに調査ログを残す必要があります。そして、分解したそれぞれの要素について、以下の情報を保存します。

  • 要素分解と検索式:発明をどのような要素に分け、どんなキーワードや分類記号を組み合わせて検索をかけたか。
  • データベース(DB)と日付:どの特許情報データベースを使い、何月何日の時点で検索を実行したか。
  • 候補文献と対比:検索結果の中からどの文献を有力な候補として選び出し、探している発明とどこが同じでどこが違うのかを対比した結果。
  • 未確認範囲:あえて調査対象から外した国や言語、またはまだ公開されていないため確認できなかった期間など、調査が及んでいない範囲はどこか。

このように、要素分解、検索式、DB、日付、候補文献、対比、未確認範囲を保存しておくことで、AIや担当者が見つけ出した情報にどのような背景があるのかを後から証明できるようになります。調査のやり直しを防ぎ、最終的な判断を正確に行うための土台として、請求項要素ごとに整理されたログが重要な役割を果たします。

よくある質問

Q1. 先行技術調査にかかる時間を見積もる際、どのような平均時間を使えばよいですか?

調査の目的によって作業時間が大きく異なるため、単一の平均時間は使えません。担当者は、出願前、無効資料、FTO(侵害予防)、特許ランドスケープといった目的ごとに、調査する文献の範囲や読み込みの深さを変えて見積もりを行う必要があります。

Q2. 特許庁の審査官が16〜30時間で調査を終えるというデータを、自社の作業時間として使ってもよいですか?

使ってはいけません。1件の特許出願に対して、IMPI(メキシコ産業財産庁)の審査官が検索と実体審査を行う平均時間が16〜30時間です。しかし、民間企業が行う調査は事業リスクに応じて範囲を広げて深く読み込むため、決められた手順で動く審査官の実作業時間をそのまま当てはめると、必要な時間を短く見積もりすぎてしまいます。

Q3. 欧州特許庁(EPO)のデータにある平均5.1か月という期間は、担当者が検索に費やす実作業時間ですか?

いいえ、作業時間ではありません。平均5.1か月という数字は、調査の手続きを終えるまでの「処理期間(リードタイム)」を示しています。この期間には、順番待ちの時間や担当者が別の案件を処理している時間も含まれています。そのため、組織の中で調査が完了するまでの期間と、担当者が実際につきっきりで文献を探す実作業時間は分けてスケジュールを組む必要があります。

Q4. AIを導入すれば、先行技術調査をすべて自動化できますか?

AIにすべての調査を任せることはできません。AIが得意なのは、膨大な特許文献を分類することや、目的に近そうな検索候補を見つけ出すことです。たとえば欧州特許庁(EPO)では、特許以外の技術文書を見つけやすくするために、15の標準化団体から集められた550万を超える文書を13の専用データベースへ統合して読解を支援しています。しかし、AIが洗い出した候補が探している技術と一致しているかについて、最終的に読み解いて判断するのは担当者です。

Q5. 検索に長い時間をかければ、関連する特許文献をすべて確実に見つけ出せますか?

検索時間だけで調査の完全性を保証することはできません。世界知的所有権機関(WIPO)の資料でも、分類の不完全さと費用制約から100%の完全性を常に得られるとは限らないと説明されています。そのため、単に時間をかけるのではなく、言語や同義語の違い、非特許文献の存在、未公開の特許といった見落としやすい死角を、担当者がしっかりと監査(チェック)することが重要です。

Q6. 先行技術調査をいつ終わらせるべきか、どのように判断して記録すればよいですか?

関連文献をさらに発見する確率と追加労力を比較して検索終了を判断するのが基準です。「これ以上探しても新しい文献が見つかる可能性は低い」と見極めたタイミングで完了とします。この判断を別の人が後から確認できるように、検索式、使ったデータベースと日付、有力な候補との対比結果、あえて調べなかった未確認範囲などの情報を、請求項の要素ごとに調査ログとして保存しておく必要があります。

調査手法について

こちらの記事はグラフAIリサーチプラットフォームのSnorbeを使って作られています。Snorbeは研究開発・新規事業向けの調査テーマに応じた幅広い項目のオートリサーチや、ナレッジグラフの構築、構造化レポートの生成ができるAIリサーチツールです。

Screenshot

調査したいテーマを入力するだけで、AIが深堀りすべき観点や広げるべき調査項目をレコメンドしながら、自動でリサーチを進めます。収集した情報はナレッジグラフとして蓄積され、未調査領域(ホワイトスペース)を可視化しながら調査の網羅性を高めていけます。

また、観点マトリクスを30秒・構造化レポートを10分で自動生成する機能があり、出典付きのレポートをMarkdown/PDF形式でエクスポートできます。調査の元データも保存されるため、ファクトチェックや社内共有も容易です。

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