鉄鋼と非鉄金属の資料を一つの表に集めると、同じ「生産量」という項目に粗鋼、鋼材、銅地金(加工前の銅素材)、アルミニウム圧延品が混ざります。数字はそろって見えますが、対象となる製品や工程が違うため、そのままでは研究テーマや材料調達を判断できません。
本稿では、リサーチAIを市場の要約だけに使わず、資料の前提を照合する作業へ組み込みます。需給、原料、技術、環境性能の公開資料をAIへ渡します。出力は支持証拠、反証、未確認項目に分け、一つの台帳へ整理させます。
人はAIの出力をそのまま結論にせず、金属の種類や鋼材の品種を原典で確認します。基準日、単位、工程境界も確認対象です。条件が一致しない情報は同列に比較せず、追加調査、保留、見送りのどれを選ぶかを調査担当者が決めます。
金属調査では同じ言葉が別の対象を指す

経済産業省の鉄鋼・非鉄金属・金属製品統計の調査票では、一つの「金属生産」という項目で数字をまとめていません。鉄鋼では、銑鉄、粗鋼、熱間圧延鋼材などで調査票が分かれています。冷間仕上鋼材や鋼管も別に扱われ、製造工程と製品形態の違いが反映されています。非鉄金属もアルミニウム、伸銅品、電線などが別の調査票になっています。
この構造に合わせて、鉄鋼の調査では品種と用途を軸にします。非鉄金属の調査では、銅やアルミニウムなど金属の種類を先に分けます。そのうえで、鉱石、地金(加工前の金属素材)、加工品のどの供給段階にあるかを確認します。
日本鉄鋼連盟の統計は、生産だけでなく受注、輸出入、品種別出荷へ入り口を分けています。粗鋼生産の総量は産業全体の稼働を示す材料にはなりますが、特定の鋼材品種の需要や、特定地域の在庫を直接説明するものではありません。
世界全体でも、2025年に18億4,940万トンの粗鋼が生産されました。この世界合計は業界全体の規模を示しますが、個別の鋼材品種の採用時期や地域需要を読み取ることはできません。
図の上段は鉄鋼を品種と用途へ、下段は非鉄金属を金属の種類と供給段階へ分けています。このように調査単位が違うため、集めた資料を照合する際は対象に合わせて整理する項目を変える必要があります。
鉄鋼と非鉄で証拠台帳の列を変える

集めた資料を照合する証拠台帳は、中央に出典と基準日を置きます。対象地域、単位、実績か予測かという項目も共通列とします。そのうえで、鉄鋼の固有列と非鉄金属の固有列を左右へ分けます。これにより、共通の条件を失わずに異なる調査単位を一覧できます。
USGSのMineral Commodity Summaries 2026は、鉱物や材料ごとに世界の生産量と埋蔵量を整理しています。この資料は日本国内の用途別需要を直接読むためではなく、世界供給の構造を確認する基礎資料として台帳に加えます。
予測と実績も明確に区別します。JOGMECが紹介した2025年秋季の国際非鉄研究会は、銅について2025年の供給超過と2026年の供給不足を見込んでいます。これらは発表時点の予測であり、後日の状況で変わり得るため、確定した実績とは別の状態で記録します。
過去の統計が途切れている場合は、欠損そのものを記録します。経済産業省の非鉄金属等需給動態統計調査は、2020年12月分を最後に中止されています。計算で空白期間を補間すると存在しない公的実績を作ってしまうため、代替資料の有無と接続できない期間をそのまま台帳に残します。
台帳では、資料ごとの基準日、対象地域、単位、実績か予測かを同じ行に記録します。次は、この台帳へ支持証拠と反証を分けて入力します。
AIで定義差と反証を同じ台帳に置く

調査の目的は、低炭素鋼材の研究テーマへ追加予算を配分するか決めることです。大型電炉は、主にスクラップを電気で溶かして鋼材を作る設備です。ここでいう不純物管理は、原料由来の成分を高級鋼の品質要件内に収めることを指します。事前仮説は「大型電炉の普及では、設備容量より高級鋼向けの不純物管理が採用時期を左右する」です。
この仮説を検証するためには、電力調達、設備納期、スクラップ品位、顧客の品質要件などを調べる必要があります。もし不純物管理の差ではなく、電力調達や設備納期が採用時期の違いを説明するなら、この仮説を退けます。支持する資料を集めることよりも、仮説を棄却できる条件を先に置くことが重要です。
実際の作業では、ChatGPTの新しいチャットを開きます。品種別生産のCSVと技術ロードマップに加え、電力調達、設備納期、スクラップ品位、顧客の品質要件を確認できる公開資料を添付します。本稿では、ChatGPTのデータ分析を使い、分析対象を公開ファイルに限定します。
AIへの依頼は、単なる要約ではなく意思決定に合わせて設計します。次のように、使用資料、台帳の列、出力する判断候補を指定します。
目的は、低炭素鋼材の研究テーマへ追加予算を配分するか決めることです。 仮説は「大型電炉の普及では、設備容量より高級鋼向けの不純物管理が採用時期を左右する」です。
添付資料だけを使い、支持証拠、反証、未確認項目へ分けてください。 電力調達または設備納期の違いが採用時期を説明する場合は、仮説への反証として示してください。
各行には品種と製法を残してください。 地域、基準日、単位も記録してください。 実績か予測かを分け、出典箇所を残してください。
最後に、予算配分、追加調査、保留、見送りのいずれかを暫定候補として示してください。不足資料も書いてください。
AIの出力は証拠台帳へまとめます。一つの台帳に支持証拠と反証を並べ、未確認項目には次に開く原典を記録します。調査担当者は、判断に必要な列が空いている項目から原典を確認し、追加調査の順序を決めます。
図の横方向は、仮説、証拠の分岐、原典確認、判断の順番に進みます。赤は反証、緑は人の確認を示しており、色で重要度を表しているわけではありません。
AIが証拠台帳と暫定的な判断を作っても、それをそのまま最終結論にはしません。ここから先は、AIが抽出した項目と原典の条件を人が直接見比べる作業へ移ります。
人は品種、基準日、工程境界を確かめる

原典の条件を見比べる際は、技術の段階や計算の範囲を正確に読み取ります。経済産業省の2025年度版鉄鋼技術ロードマップは、省エネルギーや電炉、高炉での水素活用といった技術の道筋を示しています。しかし、資料に予定時期が書かれていても、その時点で各社が量産を始めたわけではありません。技術の候補や実証の段階と、実際の製品への採用は別の状態として記録します。
国際的な動向についても同様の注意が必要です。IEAのBreakthrough Agenda Report 2025の鉄鋼章は、低排出鋼の需要形成やサプライチェーンでの属性追跡を扱っています。
制度や定義の整備は市場を作る条件になりますが、個別の工場が稼働している証明にはなりません。制度があることと、対象の鋼材が実際に供給されていることは区別して証拠台帳へ保存します。
環境性能を比較する際は、数値を計算する範囲に注意します。World Steel Associationは、16の鋼材製品についてLCIデータを公開しています。このデータは、定めた工程境界の内側で原料やエネルギー、排出量を集計したものです。
工場から出荷するまでの数値と、製品の使用段階や使用後まで含めた数値は同じ指標ではありません。排出量の大小を比べる前に、工程境界が一致しているかを確かめます。
AIが関連する数値を台帳の近い行へ並べたとしても、そのまま結論にはしません。実績か予測か、対象の製品、地域、基準日、工程境界が合っているかを一つひとつ人が見極めます。
もしどれかの条件が主張と合わなければ、反証や未確認項目として証拠台帳へ差し戻します。こうした確認手順が整ったら、次はこの一連の仕組みを一つの材料テーマへ当てはめて導入試験を行います。
一つの材料テーマで導入試験をする

組織でAIの利用を試すときは、公開資料だけを使い、一つの材料テーマと一つの判断に絞ります。これまでに扱った低炭素鋼材の研究テーマなど、具体的な判断を一つ定めます。
実際の試験では、人手調査とAIを使う調査の条件をそろえます。同じ公開資料と判断課題を使い、台帳の列と反証条件も統一します。試験仮説は「必須原典の発見率を下げず、誤引用を増やさずに、台帳完成までの総所要時間を短縮できる」です。二つの方法を並行して進め、共通の指標で結果を見比べます。
結果を比べる際は、担当者が試験前に必須と定めた原典のうち発見できた割合、定義差の検出数、誤引用数、未確認項目数を記録します。やり直しを含む再調査時間も測ります。
回答の速さだけでは導入を判断しません。AIの出力時間に加え、人が原典を確認し、誤りを直し、台帳を完成させるまでの時間を測ります。必須原典の発見率が人手調査を下回る場合や、誤引用が増える場合は、その用途での導入を見送ります。台帳完成までの総所要時間が短くならない場合も、その用途での導入を見送ります。
比較を再現できるように、使用ファイルと取得日、判断課題、台帳の列、反証条件を保存します。AIへの依頼文、出力、人が直した箇所も同じ試験記録へ残します。
R&Dの新規テーマ調査と競合分析の実務手順では、調査目的に応じた仮説と証拠の置き方を別の業務で解説しています。
よくある質問(FAQ)
Q1. リサーチAIは金属業界の調査で何を照合しますか?
利用者が需給、原料、技術、環境性能の公開資料を渡します。基準日と単位に加え、対象地域と工程境界を分けて出力するよう依頼します。
AIの出力は、仮説を支持する証拠、反証、未確認項目の候補です。調査担当者が原典と照合して台帳へ確定します。製造設備を制御するAIとは用途が異なります。
Q2. 鉄鋼と非鉄金属を同じ表で比較できますか?
出典や基準日といった共通の項目は、同じ列に置くことができます。
ただし、鉄鋼は品種と用途、非鉄金属は金属の種類と供給段階の列を別々に設けます。「生産量」という一つの列に異なる金属の数字をまとめることはしません。
Q3. AIが見つけた需給予測を採用してよいですか?
AIの出力をそのまま採用しません。発表日、対象期間、対象地域、単位を原典で確認し、予測の前提条件も読みます。
新しい予測や確定した実績が発表されていれば、台帳の数値を更新します。古い予測は消さずに、当時の見通しとして別の状態で残します。
Q4. 社内の材料データをChatGPTへ添付できますか?
組織の利用規則と契約で、対象データの送信が許可されている場合だけ添付します。最初の試験は公開資料に限定します。
社内データを扱う前に、契約しているサービスとプランを特定します。保存、学習利用、削除の条件とアクセス権を管理部門に確認してください。確認できないデータは送信しません。
Q5. 導入試験では何を測りますか?
人手調査とAIを使う調査へ同じ公開資料と判断課題を渡します。必須原典の発見率、定義差の検出数、誤引用数、未確認項目数、再調査を含む所要時間を比べます。
必須原典の発見率が下がる場合や、誤引用が増える場合は、その用途での導入を見送ります。台帳完成までの総所要時間が短くならない場合や、利用規則と契約条件を満たせない場合も同じです。
調査手法について
こちらの記事はグラフAIリサーチプラットフォームのSnorbeを使って作られています。Snorbeは研究開発・新規事業向けの調査テーマに応じた幅広い項目のオートリサーチや、ナレッジグラフの構築、構造化レポートの生成ができるAIリサーチツールです。

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調査したいテーマを入力するだけで、AIが深堀りすべき観点や広げるべき調査項目をレコメンドしながら、自動でリサーチを進めます。収集した情報はナレッジグラフとして蓄積され、未調査領域(ホワイトスペース)を可視化しながら調査の網羅性を高めていけます。
また、観点マトリクスを30秒・構造化レポートを10分で自動生成する機能があり、出典付きのレポートをMarkdown/PDF形式でエクスポートできます。調査の元データも保存されるため、ファクトチェックや社内共有も容易です。
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