製薬R&D投資TOP15社2026|投資額×パイプライン×AIで読む創薬地図

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製薬業界のR&D投資額ランキングは、毎年のように順位が入れ替わります。2024年はMerckがそれまでの2倍近い一時費用が剥落して41.3%減、逆にAbbVieは66.8%増と、投資額の伸び縮みが激しい年でした(PharmaShots Top 20 Biopharma R&D 2024)。

ただ、金額だけを追いかけても業界の現在地は見えにくいです。Rocheはパイプライン262品目で業界最大なのに投資額は3位、GLP-1で伸びるEli Lillyは投資額が中位に見えて対売上比では業界平均、Insilico や Isomorphic とのAI提携金額が年々ゼロを増やしている、といった別の指標を並べると、ようやく「どこに賭けているか」の地図が読めてきます。

この記事では、2024年実績のTOP15社を投資額、パイプライン数、AI創薬提携の3列で並べて、モダリティ別(GLP-1/抗体/mRNA/細胞遺伝子治療/放射性医薬)でどこに投資が集中しているかを整理しました。日本勢の対売上比が世界平均より高い理由と、月次でこの地図を更新する実務ワークフローまで通しで見ていきます。

この記事でわかること

  • 2024年R&D投資額TOP15社の順位、金額、前年比
  • 各社のパイプライン規模(Roche 262品目、Pfizer 32品目 Phase 3など)
  • モダリティ別(GLP-1/抗体/mRNA/CGT/放射性医薬)の投資マップ
  • 大手×AI創薬企業の提携マトリクス(契約規模と対象範囲)
  • 日本製薬10社の投資額と対売上比、AI導入状況
  • 月次で投資マップを更新する実務ワークフロー

R&D投資額を「金額だけ」で見るのはもう古い

R&D投資額を3列で見る

製薬R&D投資のランキングを見る時、順位表だけで判断すると必ず誤読します。理由は3つあります。

1つ目は、単年度の投資額には一時費用(買収、リストラ、減損)が大きく影響することです。Merckは2024年に一時的なライセンス費用の剥落でR&Dが41.3%減の179.3億ドルまで下がりました(BioSpace Pharma R&D Spend 2025)。逆にAbbVieは同じ年に66.8%増の127.9億ドルまで跳ね上がっています(PharmaShots)。「Merckが弱くなった」わけでも「AbbVieが急に強くなった」わけでもなく、会計上の一時費用の出入りが大きかっただけです。

2つ目は、金額とパイプライン数が必ずしも比例しない点です。2026年1月時点でRocheは業界最大の262品目のパイプラインを持ちますが、R&D投資額(144.3億ドル)はMerckとJ&Jに次ぐ3位です(PharmaLive 2026 Pipelines)。Pfizerは Phase 3 に32品目を並べる業界トップですが、投資額は108.2億ドルで8位に留まります。「投資効率」と「投資規模」は別の指標として見る必要があります。

3つ目は、AI創薬提携の契約規模が既存のR&D投資額に反映されにくいことです。Eli LillyがInsilico Medicineと2026年3月に締結した契約は総額27.5億ドル(AIM Media House 2026 clinical reality)、TakedaがNabla Bioと2025年10月に締結した契約は10億ドル規模(知財の余白)と、単年のR&Dコスト以上の外部委託契約が動きます。この分は将来の複数年のマイルストーン支払いなので、単年の10-K上の数字には表れきりません。

この記事では、この3つの誤読を避けるため、次の3列でTOP15を並べます。

  • 列1: R&D投資額(2024年10-K/20-F実績、USD億)
  • 列2: パイプライン規模(総プロジェクト数、Phase 3 数)
  • 列3: AI創薬提携(主要パートナー、公表契約規模)

3列を並べると、「金額は下がっているがパイプラインは厚い」(Merck)、「金額もパイプラインも中位だがAI提携で先手」(Lilly)、「対売上比で世界最高水準」(小野薬品)といった、順位表からは見えない構造が現れます。

TOP15ランキング|2024年R&D投資額とパイプライン数を並置

TOP15ランキング

2024年の各社10-K/20-Fと20-F、業界集計をクロスして作成した TOP15 が次の通りです。金額はUSD億ドル、前年比は2023年からの増減、パイプラインは2026年1月時点の公表数です。

順位 企業 本社 2024 R&D投資 (USD B) 前年比 パイプライン数 主力領域
1 Merck (MSD) 17.93 -41.3% 170+ Keytruda / PCSK9 / GLP-1
2 Johnson & Johnson 17.23 +14.3% 100+ 腫瘍 / 免疫 / 神経
3 Roche スイス 14.43 -8.2% 262(業界最大) 腫瘍 / 神経 / 眼科
4 AstraZeneca 13.58 +24.2% 100+ (Phase 3 7本 2025) 腫瘍 / 希少疾患 / CVRM
5 AbbVie 12.79 +66.8% 375+ 試験 Skyrizi / Rinvoq / 腫瘍
6 Bristol-Myers Squibb 11.15 +20.0% 50+ 腫瘍 / 心血管
7 Eli Lilly 10.99 +18.0% 60+ GLP-1 / 腫瘍 / アルツハイマー
8 Pfizer 10.82 +1.4% 250 (Phase 3 32本) 腫瘍 / ワクチン / mRNA
9 Novartis スイス 10.02 -11.9% 180+ 腫瘍 / 免疫 / 放射性医薬
10 GSK 8.04 +1.5% 70+ 腫瘍 / ワクチン / HIV
11 Sanofi 7.70 +7.2% 83 (NME 38) 免疫 / 希少疾患 / ワクチン
12 Novo Nordisk デンマーク 6.71 +39.8% 20+ 糖尿病 / 肥満 / CVD
13 Boehringer Ingelheim 6.47 +1.7% 60+ 呼吸器 / 心代謝 / 腫瘍
14 Bayer 6.46 +9.1% 50+ 心血管 / 腫瘍 / 眼科
15 Amgen 5.96 +24.7% 40+ 腫瘍 / 心血管 / 骨疾患

(出典: PharmaShots Top 20 R&D Spending Biopharma 2024BioSpace Pharma R&D 2025、各社 SEC filings、PharmaLive 2026 PipelinesOzmosi Pipeline Race 2025

上位3社と、順位変動が大きかった数社を補足します。

Merck(1位・179.3億ドル): 単年で41.3%減という数字はセンセーショナルですが、これは前年に計上した特殊項目(Prometheus買収の一時費用など)の剥落による効果です。売上高641.7億ドルのうちKeytrudaが295億ドル(+18%)で46%を占める構造は変わらず、パイプラインの層は世界最大級で維持されています(Merck 4Q24 財務発表Lexology Keytruda 2024)。

Johnson & Johnson(2位・172.3億ドル): Innovative Medicine セグメントのR&D比率は23.7%と非常に高く、腫瘍領域の売上は2024年に208億ドル(+17.7%)まで到達しました。CEOは「2020年代末までに腫瘍で500億ドル規模」を公言しています(Contract Pharma J&J profilePharmaLive J&J 2025)。

Roche(3位・144.3億ドル): R&D投資はやや控えめに見えますが、パイプラインは業界最大の262品目、NME(新有効成分)だけで71個、総プロジェクト数122個と圧倒的な物量です。医薬品部門単独では110億スイスフランを投じています(Roche Annual Report 2024ECHEMI Roche 2024)。

AbbVie(5位・127.9億ドル): 66.8%増の伸びはHumira崖からの脱却を目指した投資強化の結果で、Skyrizi と Rinvoq の合計売上は2024年に176億ドルまで拡大しました(AbbVie 2024 Annual Report)。2027年に両薬合計310億ドル超のガイダンスを出しており、投資の意図がはっきり見えます。

Eli Lilly(7位・109.9億ドル): GLP-1薬 Mounjaro/Zepbound が牽引し、2025年通年ガイダンスを630〜635億ドルまで引き上げました。Q1 2025は45%増の127.3億ドルです(Lilly Q1 2025 発表Lilly Q4 2024 発表)。R&D自体もorforglipron を含む4本のPhase 3 が並行し、今後の投資額は加速の見通しです。

2026年見通し: StatistaによるとRocheが2026年に140億ドル前後で首位を維持、Merck、Pfizer、J&J が上位に続く予測です(Statista R&D 2026 予測)。全体としてTOP16合計は2024年 165B → 2025年 159B(-3.6%)と、業界としては投資の選別が進んでいます。

モダリティ別に見る「どこに賭けているか」

モダリティ別の投資マップ

同じ製薬でも、どのモダリティ(薬の作り方の種類)に賭けているかは会社ごとに全く違います。単年R&D額の順位表だけでは見えにくいので、5つのモダリティで整理します。

抗体医薬(mAb / ADC)

Roche(Herceptin、Ocrevus)、AstraZeneca(Daiichiとの Enhertu ADC 提携)、J&J(Darzalex)、AbbVie(Skyrizi、Rinvoq は分子標的ですが免疫は抗体系のバックボーンと絡む)、BMS(Opdivo)が抗体に厚く配分しています。特にADC(抗体薬物複合体)は AstraZeneca × 第一三共の Enhertu が牽引役で、2024年 CER で腫瘍領域が21%成長しました(AstraZeneca Annual Report 2024)。

mRNA / 核酸医薬

Moderna が45.4億ドル(Top 18位)、Pfizer(BioNTech 提携)、Sanofi(社内mRNA プラットフォーム)が主軸。Pfizerは mRNA インフル/COVID コンビネーションを後期試験で進めています(Labiotech Pfizer pipeline)。ModernaはCOVIDワクチン後の腫瘍mRNA(メラノーマ)に転換中で、-6.19%と若干の縮小です(PharmaShots)。

細胞遺伝子治療(CGT)

Novartis(Kymriah、Zolgensma、放射性医薬 Pluvicto と組み合わせた腫瘍戦略)、Vertex(Casgevy = 世界初のCRISPR承認薬)、Roche(Spark Therapeutics 買収済)、BMS(Breyanzi、Abecma)が主要プレイヤーです。VertexはR&D投資36.3億ドルで規模はTOP20圏内でも下位ですが、対売上比R&Dは32.6%と業界屈指の高さ(PharmaShots Vertex)。

GLP-1 / 肥満治療

2024〜2025年で製薬業界の投資マップを最も大きく書き換えているのがこの領域です。Eli Lilly(Mounjaro、Zepbound、経口 orforglipron)と Novo Nordisk(Ozempic、Wegovy)の2社体制で、両社ともR&D投資の対売上比は他社より低いのですが、絶対額の伸びが異次元です。Novo Nordiskは39.8%増の67.1億ドル、Lillyは18.0%増の109.9億ドルまで来ています(PharmaShots Top 20)。

「儲かるから研究できる」の好循環に入っており、Roche、Pfizer、Amgen、AstraZeneca も GLP-1 系の追随品を後期試験で走らせています。

放射性医薬(Radioligand Therapy)

Novartis が Pluvicto(前立腺癌)で2025年に47.8億ドル(+57%)まで伸ばして市場を作った領域(Novartis 2025決算)。BMSAstraZeneca が M&A で参入を進めており、2026-2030年で最も投資増が期待される新モダリティです。Novartisは Kisqali のピーク売上ガイダンスを100億ドルまで引き上げ、放射性医薬と分子標的薬の2軸で腫瘍を攻める構図です。

モダリティ別で見ると、「金額が多い会社ほど強い」わけではなく、「早くから賭けたモダリティで先行者利益を取っている会社が強い」構造が浮かびます。Novartis の放射性医薬、Vertex の CRISPR、Novo と Lilly の GLP-1 は、いずれも数年前は「マイナー」扱いだった賭けが的中したパターンです。

AI創薬提携マトリクス|大手×AI企業の契約規模

AI創薬提携マトリクス

2024〜2026年で製薬業界のもう1つの主軸になっているのが、AI創薬企業との超大型提携です。契約総額を並べたマトリクスが次の通りです。

大手製薬 AIパートナー 公表契約規模 対象範囲 出典
Eli Lilly Insilico Medicine 27.5億ドル(2026年3月) 標的発見〜候補創出 AIM Media House
Eli Lilly Isomorphic Labs 17.5億ドル 構造ベース分子設計 Presenc.ai IsoDDE 2026
Novartis Isomorphic Labs 12億ドル規模 構造FM系(AlphaFold) Presenc.ai IsoDDE 2026
Takeda Nabla Bio 10億ドル(2025年10月) de novo 抗体設計 知財の余白
Takeda Insilico Medicine 約6億ドル(2026年7月) パイプライン共同開発 日経新聞 武田×Insilico
Merck Absci 約6.1億ドル 抗体設計 OnHealthcare AI Capital Stack
BMS Owkin 継続契約 病理AI・バイオマーカー OnHealthcare
Sanofi BioMap 提携 タンパク質設計 OnHealthcare
GSK Cerebras Systems 継続 大規模計算基盤 OnHealthcare
AstraZeneca BenevolentAI 継続 標的発見 OnHealthcare
Bayer Recursion 提携 表現型スクリーニング PharmaLive 2026 pipelines
Amgen NVIDIA BioNeMo パートナー 分子生成AI Presenc.ai
Roche Recursion / 内製 継続 表現型/画像AI OnHealthcare
中外製薬(Roche傘下) 内製 MALEXA 非公表 抗体標的探索〜分子設計 AI革命 2026
第一三共 AWS SageMaker+Bedrock+AgentCore 非公表 DMTA サイクル基盤(2026年運用開始) AI革命 2026
塩野義製薬 日立製作所 非公表 規制文書作成AI AI革命 2026

この表から読める傾向は3つあります。

1つ目は、契約規模のスケールが変わったことです。2022〜2023年頃までは1件あたり数千万〜数億ドル規模が中心でしたが、2025〜2026年はマイルストーン込みで10億ドル超が普通になりました。Lilly × Insilico の27.5億ドル、Lilly × Isomorphic の17.5億ドルはこの流れの象徴です。

2つ目は、AI企業側の「実力証明」が進んだことです。Insilico Medicine は自社開発の rentosertib(特発性肺線維症)で、AIで発見・設計された初のPhase 2読み出しに到達しました(AIM Media House 2026)。Isomorphic Labs は2026年末までにヒト投与を予定と Demis Hassabis が公言しています。「AIで作った薬が本当に効くか」の証明段階に入りました。

3つ目は、国内大手も追随していることです。武田が Nabla Bio と Insilico の両方と提携、中外が社内 MALEXA を持ち、第一三共が AWS 上でDMTA サイクルを2026年運用開始します(東洋経済 武田AI創薬AI革命 2026)。「PoCで終わる」段階は明確に過去のものになっています。

臨床開発中のAI発見薬は世界で173以上、うち15〜20が2026年に Phase 3 pivotal に入る見込みです(AIM Media 2026)。次の3〜5年で「AI由来の承認薬」が並ぶことは、ほぼ確実な流れになってきました。

投資対効果はどう測るか|対売上比・Phase 3読み出し・成功確率

投資対効果指標

R&D投資額の絶対額と並んで、実務家が必ず見るのが投資効率の指標です。3つの角度から整理します。

対売上比R&D

売上高に対してR&D投資が占める比率です。20%を超えると「高R&D比率」と評価されます。2024年時点の主要な高比率企業が次の通りです(PharmaShotsAnswersNews 世界ランキング)。

  • Regeneron: 40.8%
  • Vertex Pharmaceuticals: 32.6%
  • Merck & Co.: 24.3%
  • AstraZeneca: 24.2%
  • Johnson & Johnson (Innovative Medicine): 23.7%
  • Eli Lilly Q4 2024 一時: 22.3%
  • AbbVie: 22.5%(adj)

20%超え10社の共通点は、パイプラインの層を厚く維持する経営方針を明示していることです。逆に GLP-1 の Lilly/Novo は絶対額こそ多いですが、売上急伸で分母が大きくなっているため対売上比は業界中位(15〜18%)に落ち着きます。

平均創薬コストと成功確率

  • 新薬1品目あたり平均創薬コスト: 22.3億ドル(Phase入り→承認までの総投資、Deloitte 2024調査)
  • Phase 1 → 承認の平均成功確率: 7.9%(BIO Industry Analysis 2021)
  • Phase 3 → 承認の平均成功確率: 約58%
  • Phase 3 平均試験期間: 2〜4年

TOP15社が単年150〜180億ドル/社を投じても、実際に承認まで抜けるのは10品目に1本というのが業界の相場感です。だからこそAI活用でこの成功確率を1〜2ポイント上げるだけでも巨額のリターンが期待できます。

AI活用でのタイムライン圧縮

Insilico Medicineは標的発見〜IND申請までを 18ヶ月 で通す事例を出しています(AIM Media 2026)。従来の Discovery〜IND が平均で3〜5年かかることを考えると、単純計算で半分〜3分の1です。

「タイムライン圧縮 × 成功確率向上 × 探索範囲拡大」の3点セットが、AI創薬提携が急拡大している経済的理由です。契約規模が10億ドル超になっても、期待リターンが数百億ドル規模なので、大手にとっては合理的な投資判断と言えます。

日本勢の位置と戦略|対売上比の高さは何を意味するか

日本の製薬企業

日本の製薬企業は、絶対額では世界TOP15と桁が違いますが、対売上比では世界平均を上回る「高R&D比率型」の戦略を採っています。最新の数値(有価証券報告書ベース、WDB 医薬品R&Dランキング)が次の通りです。

順位 企業 R&D費(億円) 対売上比 決算期
1 武田薬品工業 7,302 15.9% 2025年3月
2 第一三共 4,360 23.1% 2025年3月
3 アステラス製薬 3,277 17.1% 2025年3月
4 大塚ホールディングス 3,142 13.5% 2024年12月
5 中外製薬 1,814 15.5% 2024年12月
6 エーザイ 1,716 21.7% 2025年3月
7 小野薬品工業 1,500 30.8% 2025年3月
8 塩野義製薬 1,086 24.8% 2025年3月
9 協和キリン 1,035 20.9% 2024年12月
10 住友ファーマ 499 12.5% 2025年3月

武田の7,302億円をドル換算すると約48億ドル前後で、世界順位ではTakedaとして20位圏内(PharmaShots 集計45億ドル)です。第一三共の4,360億円(対売上比23.1%)、アステラスの3,277億円(17.1%)を足し合わせると、日本勢TOP3で約1兆5千億円のR&D投資を積んでいる計算です。

注目すべきは対売上比の高さです。小野薬品の30.8%、塩野義製薬の24.8%、第一三共の23.1%、エーザイの21.7%、協和キリンの20.9%は、いずれも世界のRegeneron/Vertex/Merck/AstraZenecaと同じ「高R&D比率」ゾーンに入ります。売上規模が世界大手の10分の1〜5分の1でも、限られたリソースを研究開発に集中投下する経営判断が数字に出ています。

日本発のAI創薬の胎動も並行して進んでいます(AI革命 国内AI創薬事例 2026日経新聞 武田×Insilico)。

  • 武田薬品: Nabla Bio(10億ドル)と Insilico Medicine(約6億ドル)の両方と戦略提携。海外AI創薬の先端を取り込む「オープンイノベーション」路線
  • 中外製薬: 自社開発の抗体医薬AI「MALEXA」で標的探索から分子設計までを内製化。Roche傘下の強みを活かした独自路線
  • 第一三共: AWSの SageMaker + Bedrock + AgentCore で DMTA サイクル基盤を構築、2026年運用開始
  • 塩野義製薬: 日立製作所と組んで規制文書作成AIを実装、薬事申請のリードタイム短縮
  • エーザイ: 認知症領域でNTTデータやAtomwiseと連携、レカネマブの後続を狙う探索
  • 小野薬品: PD-1オプジーボの後続として抗体医薬のインシリコ最適化を進める

「PoCで終わる」段階から「本番運用に組み込む」段階へ、日本大手も明確に移行しています。対売上比の高さで培った研究文化と、AI活用で得られる開発効率が組み合わさった時、日本発の創薬パイプラインがどう化けるかは今後3〜5年の見どころです。

R&D投資マップを月次で更新する実務ワークフロー

月次更新ワークフロー

ここまで整理してきた「R&D投資 × パイプライン × モダリティ × AI提携」のマップは、実は毎四半期どころか毎月大きく動きます。10-K や 20-F は年1回ですが、四半期決算、パイプライン更新、AI提携ニュース、臨床試験の読み出しは年間で数百件のペースで飛び込んできます。

実務家(R&D企画、知財、新規事業、投資家)の現場で必要になるのは、この動きを月次で追いかけて、経営会議や社内報告で使える形に整えるワークフローです。私の経験では、次の3ステップが「回る」パターンです。

ステップ1: 四半期決算とパイプライン更新の一次取得

各社の10-K、20-F、4半期決算プレゼンをSEC EDGAR、IR ページ、SECOND MARKET DATA、EvaluatePharma、GlobalData Pharma Intelligence Center などから拾います。ここは「ソース収集」の作業で、標準化された一次データを取ることが目的です。

ステップ2: AI提携ニュースと臨床試験の横串検索

Fierce Biotech、Endpoints News、BioPharma Dive、PharmaLive、日経新聞、東洋経済、AnswersNews といった業界メディアと、ClinicalTrials.gov、PubMed、Semantic Scholar、企業プレスリリース、Twitter/X 上の業界人ポストを横断して、単発の「事件」を拾います。ここが一番手間が集中する部分です。

ステップ3: マップに反映して「変化」だけを社内共有

集めたデータを R&D 投資マップ(自社スプレッドシート、Notion、Airtable など)に反映して、「先月から何が変わったか」だけを1枚で共有します。全部渡すと読まれないので、変化点にフォーカスする設計が要点です。

このワークフローで最も時間を食うのは、ステップ2の横串検索です。従来は各社の10-K を数十本、業界メディアを数十媒体、臨床試験DBを横断で叩く必要があり、「Google で企業名 × 年度 × トピック」を100〜200回叩いて、リンクを1つずつ確認する作業に半日〜1日を溶かすのが普通でした。

ここで新しい選択肢として使えるのが、私たちが開発しているSnorbe(スノーブ) というリサーチAIです。Snorbeは、Web の一般検索に加えて、SEC EDGAR、Google Patents、JPO、EPO、arXiv、PubMed、Semantic Scholar、CB Insights といった専門データベースをナレッジグラフ上で横断する設計で、「武田薬品の2024年R&D投資額と、AI創薬提携先の契約規模を全部並べて」のような、自然な日本語のリクエスト1つで、複数ソースを横断した回答が返ります。

大手コンサルの R&D 分析や、Fierce Biotech の Special Report を全部読む代わりに、月次で「変わったところだけ」を数分で取れる別軸の武器として設計しました。しかも、一度調べたテーマはナレッジグラフに蓄積されて、次回同じ企業を調べた時に「前回から差分でここが変わっています」と教えてくれます。

R&D投資マップは、月次で回せば経営判断の精度が確実に上がる領域です。「今月Merckで何が動いたか」「Lilly のGLP-1提携で新規はどこか」「第一三共の AI 基盤がどこまで進んだか」を、大手メディアの記事化を待たずに一次ソースから月次で押さえられる体制を、Snorbeで作ってみてください。

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FAQ|製薬R&D投資と2026年の動向

Q1. 2024年に製薬R&D投資額が業界全体で減った理由は何ですか?

TOP16社合計で2024年 165B → 2025年 159B(-3.6%)となった主因は、Merck の一時費用剥落(-41.3%)、J&J の 2025年削減(-15%)、BMS の2025年削減(-11%)といった大手数社の投資選別です。全社が減らしたわけではなく、AbbVie(+66.8%)、AstraZeneca(+24.2%)、Amgen(+24.7%)、Novo Nordisk(+39.8%)のように大幅増の企業も並存しています。パイプラインの優先順位付けが業界横断で進んでいるのが実態です(BioSpace R&D 2025)。

Q2. 「対売上比R&D」はどれくらいが標準ですか?

製薬業界の対売上比R&Dの中央値は15〜18%です。20%を超えると「高R&D比率」に分類され、Regeneron 40.8%、Vertex 32.6%、Merck 24.3%、AstraZeneca 24.2% などが該当します。日本勢では小野薬品30.8%、塩野義24.8%が世界水準の高比率です。GLP-1 で売上急伸中の Lilly/Novo は絶対額の増加が大きいものの、分母(売上)が急拡大しているため対売上比は10%台後半に落ち着いています。

Q3. パイプライン数はどこで公表されていますか?

各社の Annual Report(10-K/20-F)、四半期決算プレゼン、R&D Day 資料に載っています。第三者集計としては、PharmaLive の年次「Pipelines to Watch」、Ozmosi、Statista、Citeline(Pharmaprojects)などが横断集計を公表しています。2026年1月時点ではRocheが 262品目で首位、Pfizer が Phase 3 32品目で首位です(PharmaLive 2026)。

Q4. AI創薬提携の契約規模はどう読めばいいですか?

公表される「契約総額」は、通常は前払い金+開発マイルストーン+販売マイルストーン+ロイヤリティの合算です。前払い金は数千万〜数億ドル、残りは開発の進行度合いに応じて分割払い、承認・売上達成でボーナスが払われる構造です。Lilly × Insilico の27.5億ドルなら、契約時点で払われるのは1〜3割程度で、残りは今後10〜15年かけて分割されるのが一般的です。単年R&D費と比較する時は「発表時点で全額計上」ではないと理解してください(知財の余白 武田×Insilico解説)。

Q5. 日本の製薬企業でR&Dが最も多いのはどこですか?

武田薬品工業が2025年3月期で7,302億円(対売上比15.9%)で首位です。2位は第一三共の4,360億円(23.1%)、3位はアステラス製薬の3,277億円(17.1%)、4位は大塚HDの3,142億円(13.5%)、5位は中外製薬の1,814億円(15.5%)と続きます。上位10社の総和で約2兆5千億円規模のR&D投資が国内で動いています(WDB 医薬品R&DランキングAnswersNews 国内ランキング 2026)。

Q6. モダリティ別で今後最も伸びるのはどこですか?

短期(2025-2027年)は GLP-1 と ADC、中期(2027-2030年)は放射性医薬(Radioligand Therapy)と細胞遺伝子治療(CGT)、長期(2030年以降)はAI発見のバイオ医薬という見立てが業界コンセンサスに近いです。GLP-1 は Lilly/Novo が寡占していますが、経口薬(orforglipron 等)で参入余地があり、ADC は AZ × 第一三共の Enhertu が牽引役、放射性医薬は Novartis の Pluvicto が市場を作りました。AI発見薬は2026年時点で臨床開発中の173品目のうち15〜20品目が Phase 3 に入る見通しです(AIM Media House 2026)。

まとめ|R&D投資マップは「金額×パイプライン×AI」の3列で見る

製薬業界のR&D投資は、金額だけを見ていると誤読します。この記事で見てきたポイントを整理します。

  • TOP15の金額: Merck 179.3億ドル、J&J 172.3億ドル、Roche 144.3億ドルが上位。ただし単年増減には一時費用が大きく効くので、3年平均で見るのが実務的
  • パイプライン規模: Roche 262品目(業界最大)、Pfizer Phase 3 32品目(業界トップ)と、金額順位と一致しない層の厚さがある
  • モダリティ別: GLP-1(Lilly / Novo)、抗体・ADC(Roche / AZ×第一三共)、放射性医薬(Novartis)、CGT(Vertex / Novartis)が2026年時点の主戦場
  • AI創薬提携: 契約規模が10億ドル超級に到達(Lilly×Insilico 27.5億ドル、Lilly×Isomorphic 17.5億ドル、Takeda×Nabla 10億ドル)
  • 日本勢: 武田7,302億円が絶対額首位、小野30.8%と塩野義24.8%が対売上比世界水準。武田×Insilico、中外MALEXA、第一三共×AWS のAI基盤化が並行

この地図は、毎四半期で確実に動きます。10-K/20-F、決算短信、パイプライン更新、AI提携ニュース、臨床試験読み出しを月次で追いかけて、「先月から何が変わったか」を1枚で共有する体制が、R&D企画・知財・新規事業の現場で効いてきます。

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