SparkLabsの新AIファンドから学ぶ海外スタートアップ14選！サウジアラビアでの新展開とは？

SparkLabsAIM AI Fundの概要とAIスタートアップ投資の現状
投資先企業の紹介
AIスタートアップ投資の展望とAIM AI Fundがもたらす変革
調査手法について

SparkLabsAIM AI Fundの概要とAIスタートアップ投資の現状

近年、AIスタートアップへの投資が世界的に活発化しています。2024年3月時点で、210以上のAIユニコーン（評価額10億ドル以上）が登場しており、特に米国は2013年から2022年の間に4633のAIスタートアップを設立するなど、AIスタートアップ投資をリードしています。

このような状況の中、VC・アクセラレーターであるSparkLabsは、5000万ドルのAIスタートアップ投資ファンド「AIM AI Fund」を設立しました。このファンドは、AIM-Xアクセラレーターを通じて、AIスタートアップの支援を目的としています。

本記事では、SparkLabsの概要やその投資先を紹介して、グローバルなAIスタートアップのトレンドやサウジアラビアのAIスタートアップの現状に迫ります。

ファンドの規模と投資方針

AIM AI Fundは、総額5000万ドルの規模を持ち、革新的なAIスタートアップへの投資を行います。ファンドの約35%はアクセラレーター参加者を支援し、残りの65%はサウジアラビア以外の地域でのシリーズAおよびシリーズB投資に充てられます。

アクセラレーター参加者への平均投資額は20万ドルで、特別なケースでは50万ドルに達する可能性があります。シリーズAおよびシリーズBの投資は100万ドルから500万ドルの範囲で行われ、ファンド全体で50から70社への投資を目指しています。

サウジアラビアのAIM-Xアクセラレーターとの連携

AIM AI Fundは、サウジアラビアのAIM-Xアクセラレーターと連携し、現地のAIスタートアップエコシステムの発展に貢献しようとしています。サウジアラビアやMENA地域への投資は全体の10%-20%を見込んでおり、現地のスタートアップ支援に注力します。

グローバルなAIエコシステム構築への貢献

SparkLabsは、世界中に14のファンドを持ち、550以上のスタートアップに投資しているグローバルなアクセラレーターです。OpenAIのほか、Vectara、Allganize、Kneron、Anthropic、xAI、Glade (YC S23)、Lucidya AIなどの主要なスタートアップに投資をしています。

AIM AI Fundの設立は、同社のAI分野への強いコミットメントを示すとともに、グローバルなAIエコシステムの構築に貢献することを目指しています。SparkLabsは、AIスタートアップの発掘と育成を通じて、AIによるイノベーションを加速し、社会的インパクトを創出しようとしています。

AIM AI Fundは、AIスタートアップ投資の新たな潮流を示すとともに、特にサウジアラビアとMENA地域におけるAIエコシステムの発展に大きく寄与することが期待されます。

次項では、AIM AI Fundが投資する14のスタートアップについて詳しく見ていきます。

投資先企業の紹介

AIM AI Fundは、AIを活用して革新的なソリューションを提供する14のスタートアップに投資しています。ここでは、その中から4社を取り上げ、それぞれの事業内容と特徴、社会的インパクトについて紹介します。

viAct: AIを活用した建設管理ソフトウェア

viActは、香港を拠点とするAIビデオ分析企業で、建設管理ソフトウェアとアプリを提供しています。同社は、AIを活用したコンピュータビジョンとビデオ分析技術を用いて、建設現場の安全性を向上させることを目指しています。

建設業界は、生産性が低く、事故が多発するなど、様々な課題を抱えています。viActのソフトウェアは、リアルタイムでリスクを予測し、監視作業を大幅に削減することで、これらの問題に取り組みます。導入企業からは、致命的な事故が80%減少したとの報告もあり、建設業界の安全性と生産性の向上に貢献しています。

Ahya: 気候変動対策のためのAIプラットフォーム

Ahyaは、気候変動に対処するためのAIを活用した統合プラットフォームです。同社は、特に中東、北アフリカ、パキスタン（MENAP）地域における持続可能な経済成長を目指しています。

Ahyaは、AhyaAIを使用してカーボンフットプリントの計算を行い、排出量を包括的に測定、追跡、予測することで精度を向上させています。また、ボランタリーカーボンオフセットの購入において透明性を確保し、オムニチャネルマーケットプレイス「Tawazun」を提供しています。さらに、企業の持続可能性を促進し、革新的な気候アクションプロジェクトの資金調達を支援します。

ORKO: AIを活用したEVフリート管理プラットフォーム

ORKOは、シンガポールを拠点とするAI駆動の電気自動車（EV）フリート管理プラットフォームです。このプラットフォームは、すべての診断データとオペレーションを一元管理できる機能を持ち、顧客がパフォーマンスや診断の問題をリモートで特定し、メンテナンスを計画しやすくすることを目的としています。

ORKOのシステムは、さまざまなフリートに柔軟に対応しており、2輪車、3輪車、4輪車それぞれに最適化されたソリューションを提供します。複雑なシステムから簡素化された管理へと移行し、すべてのステークホルダーを統一されたプラットフォームで管理することで、時間の節約とプロセスの効率化を実現します。

Roughneck AI: リアルワールドデータを生成するプラットフォーム

Roughneck AIは、サンフランシスコを拠点とするデータプラットフォームで、従来の公的ビデオデータセットの限界を超え、リアルワールドの相互作用を捉えるために高度なセンサーを活用し、前例のない多次元データセットを生成しています。

このデータは、単なる集約ではなく、影響力のある洞察を得るために最適化されており、深層学習アルゴリズムに以前は達成不可能だった理解をもたらします。Roughneck AIは、整然としたフォーマットとラベル付けが施されたデータを提供する統合プラットフォームを通じて、高度な深層学習を実現しています。

Optim Hire: 迅速な採用を支援するプラットフォーム

Optim Hireは、サンフランシスコを拠点とするAIリクルートプラットフォームで、求人の検索、投稿、紹介をオンラインで行うサービスを提供しています。同社は、求人を出してから採用までの期間を「数ヶ月」ではなく「数日」に短縮することを目指しています。

Optim Hireは、求職者に対して理想の仕事を見つけるための機能を提供するとともに、ユーザーが他の人を紹介することで報酬を得られる紹介プログラムも用意しています。これにより、採用プロセスの効率化と、優秀な人材の発掘を実現しています。

Stack Tech Farm: 3D自律型スタック農場を開発するアグリテック企業

Stack Tech Farmは、ベルリンを拠点とするアグリテックスタートアップで、現在はステルスモードにあります。同社は、3D自律型スタック農場を開発し、商業農家に新たな農業体験を提供することを目指しています。

Stack Tech Farmは、モバイルロボットを活用した新しい栽培技術を先駆けて導入し、生産密度、収益性、作物の多様性、実用的なデータを向上させることを目標としています。農業分野におけるイノベーションを通じて、食料供給の安定化と持続可能性の向上に貢献します。

Contents.com: AIを活用したコンテンツ作成プラットフォーム

Contents.comは、イタリアを拠点とするAIコンテンツ作成プラットフォームで、企業向けのAIコンテンツ作成において先駆的な役割を果たしています。同社は、生成AIを活用したプラットフォームを提供し、3000以上のクライアントにサービスを提供しています。

Contents.comのプラットフォームは、カスタマイズされたコンテンツ作成、スケーラビリティ、既存のITシステムとのシームレスな統合、ブランドアイデンティティの維持といった特徴を備えています。同社は、先進的なLLMや知識グラフを活用し、深くパーソナライズされたコンテンツを生成することで、企業のコンテンツ戦略を支援しています。

Arctech Innovation: 持続可能な害虫駆除ソリューションを提供する企業

Arctech Innovationは、ロンドンの衛生学学校からスピンオフした企業で、人工知能と自然の知恵を融合させ、持続可能な害虫駆除および疾病診断ソリューションを提供しています。同社は、害虫や病気の脅威をより良く検出するために、昆虫の嗅覚を活用しています。

Arctech InnovationのSemeion iQ®発見プラットフォームは、人工知能、昆虫の嗅覚、分析化学を融合させ、臭気バイオマーカーを発見します。これにより、害虫や致命的な病気の精密検出が可能になります。同社の製品は、害虫や媒介者の制御、人間の健康、動物の健康、農業、バイオセキュリティなど、さまざまな対象や脅威に適応可能です。

WideBot: AIを活用したコミュニケーションプラットフォーム

WideBotは、リヤドを拠点とするAIを活用したコミュニケーションプラットフォームで、顧客体験を革新することを目指しています。同社は、顧客が好むチャネルでターゲットオーディエンスに効果的にアプローチし、各顧客とのインタラクションをパーソナライズされたコミュニケーションでエンゲージします。

WideBotは、AIを活用した会話型販売ソリューションで営業戦略を強化し、潜在顧客との意味のある会話を通じてニーズを理解し、スムーズな販売プロセスを実現します。また、AIを活用したコミュニケーションプラットフォームで業務を効率化し、ルーチン業務の自動化、内部コミュニケーションの促進、チーム間のコラボレーションの改善を実現します。

Vyrill: UGCを活用したビデオマーケティングプラットフォーム

Vyrillは、サンフランシスコを拠点とするAIビデオインテリジェンスプラットフォームで、ユーザー生成コンテンツ（UGC）を活用して、Eコマースの売上とエンゲージメントを向上させるためのビデオマーケティングおよびインテリジェンスサービスを提供しています。

Vyrillは、顧客の本物のビデオをキャプチャし、他では得られない洞察を明らかにし、購入の道筋を導くために活用します。同社のプラットフォームは、UGCの自動分析とプロモーション、消費者の購入決定におけるビデオレビューの重要性、動画コンテンツのソーシングと分析といった特徴を備えています。

Layla AI: AIトリッププランナー

Layla AIは、ドイツを拠点とするAI旅行スタートアップで、旅行者向けのAIトリッププランナーサービスを提供しています。ユーザーは、特定のニーズに基づいて宿泊施設を見つけることができます。

Layla AIは、旅行者が自分のニーズに合った宿泊施設を簡単に見つけられるように設計されたAIプラットフォームで、多様な宿泊オプションとユーザーの質問に基づくサポートを提供し、パーソナライズされた旅行計画を実現します。

Orbo AI: ビューティーテクノロジーソリューションを提供する企業

Orbo AIは、ムンバイを拠点とする美容ブランド向けAIツールで、ビューティーテクノロジーソリューションを提供し、インタラクティブスマートミラーを通じて顧客との接続を強化することを目指しています。

Orbo AIのソリューションは、顧客の好み、スタイル、過去の購入履歴を分析し、パーソナライズされた推奨を行うことで、フィジタル（フィジカル＋デジタル）な小売体験を創出します。

同社のBeautyGPTは、ハイパーパーソナライズされた推奨エンジンとコンテクスチュアルディスカバリーを提供し、顧客が完璧な商品を完璧なタイミングで見つける手助けをします。

Swirl: コンテキストビデオAIを活用した売上向上ソリューション

Swirlは、インドを拠点とするAIビデオプラットフォームで、コンテキストビデオAIを活用して売上を向上させるソリューションを提供しています。同社は、売上向上（高いコンバージョン）、パーソナライズされた体験の提供、消費者インサイトの収集、顧客行動の深い洞察、没入型のショッピング体験の創出、リアルタイムショッピングイベントの実施といった特徴を備えています。

Swirlは、コンテキストビデオAIを通じて、顧客の購買体験を向上させ、売上を大幅に増加させることに成功しています。同社の顧客からは、「Swirlのサポートは素晴らしく、私のビデオがショッパブルになると言われたとき、私はすぐに惹かれました。私たちのウェブサイトでの購入が増えています。」といった声が寄せられています。

IdeasLab: スポーツ分野におけるAI技術の適用

IdeasLabは、ニューヨークを拠点とするボディモーション分析AI企業で、スポーツ、フィットネス、健康分野において先進的な人工知能技術を適用し、アスリートがパフォーマンスを向上させる力を与えることを目指しています。

IdeasLabは、独自のAIソリューションを開発し、動的な動作から収集した複雑なデータを視覚的に直感的な分析と洞察に変換します。同社のAIモデルは、数百万のスポーツ特有のデータポイントを使用して訓練され、センサーやスーツ、マーカーなどの機器なしで個々のバイオメカニクスや使用する機器を正確に追跡・分析します。IdeasLabの主力製品であるXView Golfは、ポケットに収まる3Dスタジオとして、ゴルファーのパフォーマンス向上を支援しています。

AIスタートアップ投資の展望とAIM AI Fundがもたらす変革

投資先の多様性が示す未来のAI活用シナリオ

AIM AI Fundの投資先を分析すると、AIの応用範囲の広さと、それがもたらす可能性の大きさが浮き彫りになります。

産業横断的なAI革命：建設（viAct）、農業（Stack Tech Farm）、美容（Orbo AI）、スポーツ（IdeasLab）など、多岐にわたる産業でAIが変革をもたらしています。これは、AIが特定の分野に限定されない、真に汎用的な技術であることを示しています。
社会課題解決へのアプローチ：気候変動（Ahya）、持続可能な農業（Stack Tech Farm）、害虫駆除（Arctech Innovation）など、グローバルな課題に取り組むスタートアップへの投資は、AIが単なる利益追求のツールではなく、社会貢献の強力な手段となり得ることを示唆しています。
ユーザー体験の革新：WideBot、Vyrill、Layla AIなどの投資先は、AIがカスタマーエクスペリエンスを根本から変える可能性を示しています。パーソナライゼーションと自然な対話型インターフェースが、今後のビジネスの標準になる可能性が高いでしょう。
データの民主化と活用：Roughneck AI、Contents.com、Swirなどは、AIを通じてデータの収集、分析、活用を容易にし、中小企業や個人でも高度なデータ分析が可能になる未来を予見させます。

サウジアラビアにおけるAIエコシステムの発展予測

AIM AI Fundのサウジアラビアでの活動は、同国のAIエコシステムに大きな影響を与える可能性があります。

地域特化型AIソリューションの台頭：中東・北アフリカ地域特有の課題（水資源管理、砂漠化対策など）に焦点を当てたAIスタートアップが増加すると予想されます。
AIと伝統産業の融合：石油・ガス産業などサウジアラビアの主要産業にAIを導入するスタートアップが増加し、これらの産業の効率化と持続可能性の向上が期待されます。
多言語AIの発展：アラビア語対応のAIソリューション開発が加速し、中東地域全体のデジタルトランスформーションを促進する可能性があります。
AIによる新産業創出：サウジアラビアのVision 2030に沿って、AIを活用した新しい産業（例：スマートシティ、再生可能エネルギー）の創出が加速すると予想されます。

AIスタートアップ投資がもたらす社会変革

AIM AI Fundの取り組みは、AIスタートアップ投資が単なる経済的リターンを超えた影響を持つことを示唆しています。

イノベーションの地理的分散：サウジアラビアやインドなど、従来のテクハブ以外の地域でのAI開発を促進することで、グローバルなイノベーションの多様性が高まります。
AIリテラシーの向上：多様な産業でのAI導入により、一般市民のAIリテラシーが向上し、AIと人間の共生に向けた社会的受容性が高まる可能性があります。
倫理的AI開発の促進：社会課題解決に焦点を当てたスタートアップへの投資は、倫理的なAI開発の重要性を浮き彫りにし、責任あるAI利用の基準作りにつながるでしょう。
雇用市場の変容：AIの普及により、新たな職種が生まれる一方で、既存の職種の変革も必要になります。AIと協働できるスキルを持つ人材の需要が急増すると予想されます。

結論：AI革命の真の姿

AIM AI Fundの投資先とその戦略は、AI革命が単一の技術やアプリケーションではなく、社会のあらゆる側面に浸透し、私たちの生活や働き方を根本から変える可能性を示しています。このような包括的なアプローチは、AIがもたらす変革を最大限に活用しつつ、その課題にも適切に対処するための重要な一歩となるでしょう。

今後、AIM AI Fundのような先進的な投資ファンドの動向を注視することで、AIがもたらす未来の姿をより鮮明に描くことができるはずです。そして、その未来に向けて、私たち一人一人が準備を進めていくことが重要となるでしょう。