顧客自身が生成AI(文章や画像などを作るAI)で成果物を作れる場合、制作の速さだけを支援会社への発注理由にすることは難しくなります。このような変化の中で、コンサルティングや制作、システム開発、そして業務運用の外部委託であるBPOを担う支援会社は、提供する仕事の範囲をどう見直せばよいのでしょうか。
判断の起点は、成果物の完成後も顧客に残る仕事です。自社のデータや専門家を使ってどの工程を担い、差し戻しにどこまで対応するかを、採算と合わせて検討します。
AIを使えるだけでは受注の理由にならない

顧客も同じAIを使える場合、支援会社が単にAIを活用できると伝えるだけでは、受注の理由を説明しにくくなります。コンサルティングやシステム開発から、業務の運用を外部に委託することであるBPOまで、顧客の選択肢は増えています。
決済サービスを提供するKlarnaは、自社でAIを使って成果物を作り、外部への支出を減らした例です。Klarnaが2024年5月28日に発表した資料は、2024年第1四半期の外部マーケティング業者への支出が25%減少したことを説明しています。
この削減対象には、翻訳、制作、顧客管理、ソーシャル分野が含まれます。同じ発表のなかで、同社はAI画像の生成からブランド整合性、画質、法務確認を含む開発工程の短縮についても説明しています。
ただし、顧客が成果物を生成できることと、顧客の仕事が完了することは異なります。Klarna自身も生成後の確認を含めて説明しています。品質やブランドの確認まで顧客が内製できる場合、外部に残る仕事の範囲は変わります。
一方で、顧客がAIを導入済みでも外部支援を買い続ける反例があります。UnileverとAccentureの2024年9月5日の提携拡大発表では、消費財メーカーのUnileverがすでにAIを使う業務アプリ500件を導入したと述べながら、複数年の提携を広げています。
この提携の対象には、基盤の簡素化や効果を確認した用途の全社展開、技術・デジタル製品開発が含まれます。またAccentureの2025年度財務説明は、2025年8月までの12か月間で、生成AI・エージェント型AI(作業を代行するAI)の売上27億ドル、受注59億ドルを記載しています。
これらの実例では、外部への支出削減と、外部との提携拡大が併存しています。対象となる業務の内容や顧客の能力によって、内製と外部発注の境界は案件ごとに変わります。
したがって支援会社は、自社が担当したい工程を提案の起点にするのではなく、その顧客がどこまでの仕事をすでに自力で担っているかを正確に確認する必要があります。
成果物と顧客が終えたい仕事を分ける

顧客がAIを使う事実や内製化の有無だけでは、外部へ発注する範囲を正確に決めることができません。そのため、提出する成果物と顧客が本来終えたい仕事を、具体的な工程へ分けて考えます。
顧客の業務は、成果物を出力した時点で完了するわけではありません。顧客が抱える業務全体の流れは、課題設定から意思決定へ進み、制作・実装・社内調整を経て運用と改善へ続きます。
支援する各分野において、手渡される成果物と顧客が達成したい状態は明確に区別されます。例えば、新規事業の判断を目的に調査を発注する案件では、資料の納品後に顧客の意思決定が残ります。
同様に、媒体への公開を目的にデザインを発注する案件では、画像の完成後に公開作業が残ります。システム開発であれば、出力されたプログラムのコードではなく、環境への実装と安全な稼働が求められます。
業務の運用を外部へ委託するBPOにおいても事情は同じです。マニュアルに従う定常的な処理だけでなく、システムや業務手順の不備などによる例外対応まで契約に含む場合は、その対応も完了して顧客の要件を満たします。
これらの工程を検討する際、担当する仕事の内容を三つに区別します。AIの導入によって処理時間を短縮できる作業、出力の良否を人が決める専門判断、そして社内で合意を形成する組織内作業です。
ここで架空の説明例として、ウェブサイトの制作案件を想定します。顧客自身がAIを使って画像を生成できる場合でも、公開に向けた法務やブランド管理部門との社内調整を支援会社が引き受ける選択肢があります。
生成後の確認から公開まで顧客が自ら完了でき、内製する余力と費用も見合うのであれば、その作業を外部へ発注する必要はありません。支援会社は、AIで圧縮される作業と顧客側に残る仕事を区別し、担当する範囲を探る必要があります。
前後の工程と隣接する専門性を組み合わせる

顧客の仕事をどこまで引き受けるかを決める際、前後の工程をつなぐ垂直統合と、異なる専門性を合わせる水平統合の方向があります。垂直統合は調査から提案、制作、実装、運用、改善へと担当範囲をつなぐ考え方です。
水平統合は、制作と開発など、隣接する分野を組み合わせる方法です。例えば制作工程において、AIによる生成の専門職がディレクターや撮影、画像加工などの既存の制作職と連携する体制が該当します。
博報堂プロダクツが発表した「AI Craft Studio」は、画像を出力する工程に既存の制作判断を組み合わせる販売設計の例です。これは公開された設計であり、顧客別の利益や継続受注の実績を測った成果ではありません。
同グループのインタビューは、顧客の内製化の可能性に言及しています。外部に残る仕事を曖昧な創造性で語らず、表現の決定、候補の比較、撮影や加工との結合といった具体的な工程へ落とす手がかりになります。
隣接する分野を組み合わせる例として、制作領域から開発や利用定着へ関わる動きもあります。電通デジタルなど3社の発表は、構想から業務設計、作業を代行するAIエージェントの開発、利用定着、データ連携までを支援範囲に含めています。
BPO分野でも工程を見直す例があります。パーソルビジネスプロセスデザインの発表は、Microsoftの業務支援AIであるCopilotを使うBPOを計画しました。受託業務を作業単位に分け、AIを使う部分を複数の業務に再利用できる部品として揃える設計です。顧客先での業務遂行とAI導入を両立させる例です。
前後工程や隣接分野の接続は、顧客が説明を繰り返す手間や工程間の抜けを減らせる可能性があります。一方で受託範囲を広げると、支援会社の連絡窓口や担当者の確保、修正依頼の仕分け、実装後の問い合わせといった調整も増加します。
したがって、受託する工程を増やす前に、どの段階を誰が承認し、未解決の例外がどこへ戻るかを具体化する必要があります。顧客が支援会社ごとに説明を繰り返す負担を減らせるかという利点と、自社の受託側にかかる調整費用を対にして比較します。
固有の資産と担当者が担う責任を確かめる

担当範囲を広げた際に、他社が同じ組み合わせを再現できないかを確認します。その手がかりとなるのが、顧客固有のデータや過去の判断・評価履歴、業界知識、制作素材、専門家との関係といった支援資産です。
ただし、これらを保有しているだけでは受注の理由にはなりません。顧客が自身で持つ情報、他社も入手できる情報、再利用できない情報を分けます。既存資料からAIが要約できる部分と、担当者が経験をもとに評価する部分を分けて試す必要があります。
専門家などの人材についても同様です。参加する人数や共通の価値観があるという事実だけをそのまま強みとはみなしません。顧客案件に必要な専門家を確保し、品質基準を揃え、知見を更新しながら担当交代後も仕事が続くかを確認します。
その上で、組織内の合意や利用部署への説明、問い合わせの対応などを成果物と別に確認します。架空の例として、制作案を納めるだけなら顧客が承認を担います。運用まで受けるなら、公開可否を誰が決め、差し戻しを誰が直すかが発注範囲に入ります。
実際の販売設計において、審査と保証は明確に区別されます。Hakuhodo DY ONEの制作運用紹介は、事前の書面合意や制作工程での審査と記録を説明しています。審査を実施することは、成果物の適法性を保証したり、損害を無制限に賠償したりすることを意味しません。
業務の処理を完了させることを条件とする考え方もあります。Genpactの2026年8月24日の見解は、処理や決算の成果と報酬を結びつける方向を提唱しています。これは販売設計の提案であり、特定の契約が広く普及している実績ではありません。
このような設計を提示する場合、どこまでの例外対応を引き受けるかが重要です。成果を測る指標をはじめ、入力データの欠落や顧客側の承認遅れが起きた場合の扱いをあらかじめ明示し、その合意された範囲に対して料金を設定します。
料金と引き受ける仕事を対応させる

担当する仕事の責任が決まると、その対応にかかる原価と料金を比べる必要があります。顧客の業務を引き受ける範囲を広げれば単価は上がる可能性があります。しかし同時に、自社が負担する見えない原価も増加します。
各支援形態において、顧客に提供する対象と受託側に生じる負担は異なります。生成代行では出力の確認が、運用BPOでは処理を継続するための管理が原価に加わります。
| 提供形態 | 売る対象 | 追加で発生する原価・負担 |
|---|---|---|
| 生成代行 | プロンプト設計と出力結果 | 生成後のレビュー、AI利用料、やり直しの時間 |
| 運用BPO | 手順に基づく処理と業務継続 | 顧客との調整、例外時の対応、品質管理の工数 |
| 一連工程受託 | 調査から実装までの進行 | 工程間の連携、進行管理、実装後の問い合わせ |
| 専門家人材連携 | 独自の知見を持つ専門家の判断 | 専門家確保の外注費、品質水準を統一する管理 |
採算が残るかを判断するには、AIによる制作時間の短縮だけを計算してはいけません。担当者による出力のレビューや調整、未解決の例外対応、システムの利用料、そして専門家の外注費を含め、全体を直接原価として測ります。
AI導入による作業効率の改善を、そのまま利益率の向上と結びつけることはできません。コンサルタントを対象にした研究は、コンサルタント758人の課題で効果を評価していますが、売上や顧客の支払意思は測定していません。
BPOの分野も同様です。顧客対応業務での生成AI利用を調べた研究は顧客対応担当者5,172人について、時間当たりの解決件数が平均15%増えたと報告します。しかし支援会社の対価や粗利(売上から案件の直接原価を引いた額)は研究されていません。前述のGenpactの成果課金も企業の見解であり、具体的な単価の保証にはなりません。
企業の公開するAI関連売上を、個別の案件における粗利の証拠として扱うことも不適切です。提供範囲を広げる提案をする際は、新たな提供形態に伴って増える原価を慎重に見積もる必要があります。
AIを使えば必ず早く終わるとも限りません。METRの2025年実験では、開発者16人が使い慣れたプログラムの保存場所(リポジトリ)の課題に取り組み、AI使用時の所要時間が19%長くなりました。
ただし、2026年2月の追試報告は、参加者や課題の選ばれ方などに偏りがあり、現時点の効果を信頼できる形では推定できないと説明しています。自社の工程で比べる際は、同じ品質と期間、難度、確認範囲で原価を測る必要があります。
自社の仕事で試し、次の提案範囲を選び直す

AIを組み込んだ支援範囲の採算が合うかを確かめるため、自社を最初の顧客として試すClient Zeroという手法があります。例えばIBMの人事問い合わせ対応AskHRの事例のように、自社の業務で運用して改善点を洗い出します。顧客へ提案する前に自社で試行し、提供する仕事の範囲を見直します。
試行は、顧客に売ろうとしている仕事から案件を一つ選んで始めます。例えば制作会社の責任者が、公開前の確認まで受託範囲を広げるかを決める試行です。「確認工程も引き受ければ顧客の手間を減らし、採算を保てる」と仮説を置きます。比較する入力情報、出力の合格条件、確認担当者、計測期間を固定します。
次に、試行前後の品質と手戻り回数、制作・確認・調整の時間を記録して原価を測ります。粗利は顧客と合意した料金から算定し、未合意なら想定料金による見積もりと区別します。顧客自身が内製する比率は、顧客案件の担当範囲を確認し、工程数か作業工数か分母を決めて測ります。
試行する工程の選定と見落とし確認には、利用許可を得た案件記録をCSV(表データの保存形式)やテキストファイルで用意します。ChatGPTの新しいチャットでツールメニューの「Add photos or files」(写真やファイルを追加)を選び、記録を添付します。記録中の作業と差し戻し理由を照合するよう、次の依頼文を入力します。
「確認工程まで引き受ける案を検討しています。案件記録から担当工程と差し戻し理由を照合し、未解決の仕事の候補を表にしてください。各候補に根拠の記録、反する記録、未確認事項、次に確認する相手を付け、不明な内容は推測で埋めないでください。」
出力は、受託候補の工程ごとに根拠と反証、未確認事項を並べた表として受け取ります。担当者は元の記録と照合し、差し戻しの原因や担当者をAIが取り違えていないか確認します。AIの抽出だけでは顧客の支払意思は分からないため、追加工程への対価と社内承認の進め方を顧客に聞き取ります。
顧客に残る手間、支払う意思のある対価、試行で測った追加原価を照合します。確認工程を加えると粗利が残らない、または顧客自身で完了できて外注を望まないなら、仮説を退けます。責任者は、根拠が揃った範囲を次の提案候補にし、不足する範囲は追加確認か見送りに分けます。
検証結果をもとに、自社が引き受ける支援の条件を以下の表に整理して診断します。
| 診断項目 | 確認する内容 |
|---|---|
| 顧客 | 対象顧客の社内体制と支払意思 |
| 成果物 | 納品する出力の形式と合格条件 |
| 工程 | 課題設定から運用までの担当範囲 |
| 資産 | 利用できるデータや専門家の有無 |
| 責任 | 差し戻しや例外対応の引き受け先 |
| AI代替 | 処理時間が短縮される作業の特定 |
この診断の結果、顧客側に未解決の仕事が残っておらず、採算も合わないのであれば、その範囲を売る必要はありません。提供範囲を狭める、他社と連携先を探す、あるいは案件自体を受けないという判断も、次の提案に向けた重要な選択肢になります。
よくある質問
Q1. 既存契約の途中で支援範囲を変えることはできますか。
既存の契約途中で無理に範囲を変える必要はありません。まずは現在の合意内で試験的にAIを導入し、作業時間や例外発生の変化を測定します。その結果をもとに、次回の更新時に対応工程や責任の範囲、単価を再交渉して合意を形成します。
Q2. 過去の作業時間を記録した計測データがない場合はどうしますか。
過去の記録がない場合、現在手作業で行う業務の計測から始めます。入力から出力までの処理時間や、差し戻しが発生した理由を言語化して記録します。この基準となるデータを蓄積してから、AI導入前後の変化を比較する手順へ進みます。
Q3. 自社内にAIを試験導入できる実案件がない場合はどう進めますか。
自社の実案件がない場合は、過去の仕事や公開事例をもとに模擬環境を作ります。入力と合格条件を定め、制作時間や確認手順を計測します。測れるのは模擬作業の原価であり、顧客との調整費や実案件の採算は別に確かめます。
Q4. 試行の際、協力会社が担当した工程の記録を使用してもよいですか。
協力会社の記録を利用する際は、事前に利用目的と範囲について許可を得ます。その上で自社と協力会社の担当部分を明確に切り離し、AIによる作業時間の短縮や品質への影響が、どちらの工程で生じたものかを正しく分けて評価します。
Q5. 顧客が事業の売上や業務改善などの指標を共有しない場合はどうしますか。
顧客側の事業指標が不明な場合、支援の評価基準を成果物の合格条件や、指定資料の提出など受託側で完了できる指標に置き換えます。顧客の事業成果自体は保証せず、合意した特定の工程を満たすことを責任範囲とします。
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